たすう存在

たいへん悲しい物語です。 最愛の人を喪った――そしてその直接の原因が自分にあるという現実を受け入れられずに生きる主人公。 彼女が真実に気付かないままに物語が幕をおろしたことに、僕もほっと胸を撫でおろしました。 そして作品の最後に幻影についての注釈が付いているあたりに、作者さまの主張が込められているのかな、と思いました。 【幻影】 現実には存在しないのに、実在するかのように見えるもの。まぼろし。 実在しないのに、実在するかのように見える――幻影とはまるで、僕たちが心血を注ぐ小説作品のようではないでしょうか。 そしてその小説作品の世界に浸ることと、彼女が幻影を相手に生きていくことの間にいったいどれほどの差異があるというのでしょうか。 また、作者さまが「彼女」に名前を与えなかったのも、そのあたりに狙いがあったりするのではないでしょうか。 「小説を楽しめるあなたなら、彼女の人生も肯定できるのではないですか?」 まるで作者さまのそういう問い掛けが聞こえてくるような気がする作品でした。 ありがとうございました。
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