ナナヤシキ

──俺は昔から“オカシナモノ”が見えていた。 例えばそれは晴れているのにずぶ濡れで立ち尽くしているおじさんだったり、つい先日死んだ筈のバアちゃんだったり。 つまりはそういう……所謂普通の人には見えないモノが見えるのだ。 そのお陰で俺は大変淋しい青春を送る羽目になったのである。 幼稚園から中学まで、様々な理由はあれど、およそ友達というものとは縁遠い位置にいた俺。 「今度こそ、今度こそは友達を作って青春を謳歌してやるんだ!」 ……そう意気込んで臨んだ高校生活は、それこそ好調な滑り出しだったんだ。 友達もできたし、部活にも入った。 先輩とも仲良くした。 先生の言うことに逆らったりしなかった。 順調だったんだ。 本当に、自分でも信じられないくらい、良い学校生活が送れていたんだ。 ──“あの時”までは。 「なぁなぁ、せっかくの夏休みなんだし、肝試しでもしようぜ!」 最初にそう言い出した友人のことを、俺は絶対に許さない。 あいつが肝試ししようなんて言い出さなければ、俺は普通の青春を謳歌できたのに! 「あら、あなた私が見えるの?」 “出る”と噂の旧校舎で行った肝試しの最中、俺は幽霊に出会った。 儚げで。 淡くて。 綺麗で。 寂しげな。 一人の、幽霊の少女。 そいつ……“色葉(いろは)”と名乗る幽霊に、俺は「言うことを聞かないと死ぬ呪い」をかけられてしまう。 「良いわよ、呪いを解いてあげても。でもその代わり、お願いがあるのよ」 「お願い?……何だよそれ」 「中庭の桜、見えるでしょ?あれをもう一度咲かせてほしいの」 ──ようやく始まるかと思われた俺の普通の青春は、色葉に出会ってしまったことであっさりと崩れ去った。 これは“オカシナモノ”が見える俺、笛吹葉名(うすいはな)と、旧校舎に取り憑いている幽霊、色葉との普通じゃないオカシナ青春を描いた一夏の物語── 「ねぇハナ。あなた、和歌は好き?」 「興味ないよ、全然」 「なら興味持ちなさい。じゃないと呪い殺すわよ」 「横暴だ!」 果たして俺の青春はやってくるのだろうか。 そして俺は生き残れるのか。 ──夕暮れの教室で、今日も彼女が待っている。 タイトル 【はなのいろは】 近日公開予定(公開するとは言ってない)
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