白羽莉子

「黎明のバガボンド」1  私がいた場所はどこか分からないけれど、小さな島だ。生まれた時からそこにいた。小さな頃はお母さんと二人で暮らしていた。けれど、私が畑仕事をしている最中に消えた。  それは、この島では当たり前に起きることだ。昨日も向かいに住むレダが消えたし、一昨日は、レンおじさんが消えた。  消えたという言い方がおかしかっただろうか。「せーふのひと」がきて島の外につれていってくれるのだ。誰も反抗もしなければ、誰も喜びもしない。誰一人として、それを不思議なこととして考えないでまるでなかったみたいにここで生活をする。  もう、それが十五年間ずっとだ。だから、私も不思議なこととは思わない。そうだ、思わない。今、私がここを連れ出されることになったのも。  船の中。隣にいる男の「せーふのひと」。黒っぽい服を着ている。その人が、私に言ったんだ。 「世界を見てみないか」  よく分からないけれど、私はうんって言った。そうしたら、そうかって言われて、手を握ってくれた。どうして握ってくれたかは分からない。だけど、男の人の手は汗で湿っていたことが印象的だった。そして、「せーふのひと」が被る帽子を被せてくれた。

この投稿に対するコメントはありません