門一

一つの「形」を壊すのには、とても多大な労力を要します。 個人の技量、独創性、世間が求めているもの、求めていないもの、発信する力、傍受する力、毒、薬、その他もろもろ、その他もろもろではないもの。 ありとあらゆる要素が絶妙にかみ合って新たな「形」が生まれ、同時に既存の形を壊してしまう。 「斬新」とは、そういうもの。  おっと、前置きが長くなりましたね。 本乃さんが壊したかった形はズバリ「設定」という定義ではなかったのでしょうか。 設けられた定め。むろん、これは物語を描くための要素ですが、きっと、今回はこの設定そのものにストーリーが存在するとあなたの感受性が電波を発したのではないかと。 だからまずあなたは考えた。 「設定だからこそ伝えられる物語とは」 設定ならでは、文学では表現しきれない物語に目を付けた。 そこで至った結論が「設定の相違」 作品を形成する前提で作品を一度瓦解させてしまい、その瓦礫の隙間から新たな物語を引き出す。 あなたが読者に与えたのは「違和感」だけ。 見た限りでは違和感は存在しない。これだけでも老若男女古今東西楽しんで読んでもらえる作品として仕上がっている。 しかしその違和感はとても小さく存在している。 鋭い読者が「ん?」と一つむぎの矛盾を感じたとき、その糸は真実へ一直線。ここに隠された新たな対話が顔を覗かせる。 そういった意味での作中…設中の配管という要素だったのでしょう。 小さな漏れは大きな洪水を招いてしまう。見つけたら最後。工事者は濁流を体に浴びる覚悟でそこへ急行しなければならない。 私が感じた物語はまさに激流のようなしぶきをあげておりました。 また、コパカバーナを舞台に選んだのも、私たちが読む裏側、すなわち日本の真反対に位置するブラジルを使うことで、「裏の表は表とは限らない」といった遠回しのヒントの一つだった。 どこまでも計算しつくされた作品だと思います。この作品……設品そのものが一つの数式にも見えてきます。 新たな感動をありがとうございました。 P.S 最後の1ページが全て空白であった謎が未だに解けません。 まだまだ深いミステリーを抱えているようです。 何回でも読み返しますよ。理解するまでね。 ★
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