マフツ

いつかあの娘だけに話したい話があるんだ。 あの娘の仲良しののオッサン兄さんが持っているみたいに、俺にも″生まれる前の記憶″があるんだ。 ただ俺の記憶は、オッサン兄さんみたいに、母親に慈しまれるものじゃなくてさ。 俺の母親にみたいな″奴″は、俺なんか産みたくないって、いつも考えていた。 俺も生まれたくなくて仕方ないんだけど、身体は育っちまってさ。 嫌だなあって、思いながら奴の腹の中にいたんだよ。 でもさ俺も腹にいるうちに、母親みたいな奴の中に俺が、どうしようもない理由で俺ができてしまったのがわかっちまった。 俺が、無理矢理居場所を横取りしちまったんだって、詳しい理由はわかんないだけど、母親みたいな奴の繋がったところから伝わってくるんだ。 だから、さ。 俺は、誰にも望まれてないんだってわかった瞬間に、奴の腹のなかで凍えた。 でも、凍えた瞬間に、 《あら、赤ちゃんは存在するだけで、心を救うのよ。少なくとも、私は″貴方″の事が大好きよ》 奴の腹にいた俺に、語りかけてくれた。 そして、母の腹越しに、俺の頭を撫でてくれた。 奴のーーー母の瞳越しに、懸命にそう語りかけてくれる人の顔を見た。 朱色の髪に朱色の、強気なそうでいて、慈愛に満ちた眼差しをもった女性(ひと)だった。 『相席は構いませんが、もう少し礼儀正しく出来ないんですか?』 だから物怖じしない、髪も瞳も違う色をしてけれど、俺の心を暖めてくれた強気な瞳の作りは全く同じのあの娘ーーーリリィが現れた時、本当に嬉しかった。 せめてもの恩返しじゃないけれど、″リリィ″。 あの人が俺の心を救ってくれたように、俺はリリィに凍えるような思いをさせる奴を、排除する。 だから、例え、俺が命を落としたとしても、気にしないで。 俺の命は、リリィと同じ瞳をした人に救われただけの命だから。
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やばい… 色んな妄想が膨らんでいく…!!! お絵描きしたくなる極上SSをありがとう!!
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"例(当初)の設定"の延長の奴でのやんちゃ坊主のssです。 色んな縁を絡めても、話を受け入れてくれる琴紅さんに本当に感謝です。

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