沙月

放課後の備品室で、罰掃除をしていた涼都は箒を投げた。 「ったく。何で俺様がこんな汚い部屋掃除しなきゃいけないんだよ」 「タイミング、かな」 そう答えたのは、同じく罰掃除中の東だ。 例のごとく、いざこざに巻き込まれたところに、ちょうどいいと掃除が面倒になった荻村に続きを命じられてしまった。 涼都は埃をかぶっていた備品に、呆れた声をあげる。 「いい品ばっかなのにな。こんなに埃かぶせて放っておいて。大事なもんだと言えんのかねぇ」 「じゃ、涼都ならどうするのさ」 「モノにもよるが……そうだな」 しばし考え涼都は窓の外へ目を向けた。 「とっておくよりかは、使い倒すな。周囲からは価値がなくなったとしても、壊れたとしても――それが、どう変わっても、俺の中の価値は変わんねぇ」 「何を思い浮かべて言ってるんだか。妬けちゃうな」 「存分に焼けとけ。ま、少なくとも東じゃねぇのは確かだ」 「へぇ」 すっと細められた東の目には気づかず、涼都は近くの綺麗になったソファに腰掛けた。 「つか、お前こそどうすんの」 「そうだね、俺なら」 とんっと顔の横に左手をつき、東は座る涼都の足の間に右膝をついた。 唖然とする涼都の顎に右手をかけ、くいっと上へ向けさせる。 眼前の東の顔には、いつもの笑顔はない。少し、余裕のない、真剣な顔。 「おま、何して」 「俺なら、こうして腕の中に閉じ込めて」 どんどん近づいてくる顔に、思わず息を詰める。 「――逃がさない」 あと、数センチ。吐息が当たり僅かに涼都が身構えたところで、東は動きを止めた。 「な」 「『なーんちゃって』とか言うつもりだろ」 お前って、いつもそうだよな。壊すのが怖くて、距離を取る。 涼都は東のネクタイを思いっきり引っ張った。 「うわ、ちょ」 バランスを崩し、勢いで唇がぶつかりそうになった東は顔を横へ逸らす。 真横にきた東の耳元へ、涼都はそっと囁いた。 「よく言うよ。踏み越える度胸もねぇくせに。そういうのって、生殺し」 「え、それ、どういう」 答えずに、涼都は東を押しのけて備品室を立ち去る。 ぴしゃん、とドアを閉め、涼都はずるずると床にしゃがみこんだ。 「……なに、アイツ」 あんな顔、反則だろ。 抑えていたものがこみあげ、涼都は熱くなった頬を押さえた。
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沙月さん>> ふぁー////素敵なあずりょありがとうございます!(*´ノi`)・:∴・:∴・:∴・:∴ まさかの東→←←涼都っぽくてすごく…好きなパターンでした////
凄く良かったです。

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