天陰村雲

 朝起きて、何気無く小説のページを更新する。  そして、反応を期待しながら、栞の数を見る。  もうすぐ百人。  嬉しいとは思う。けど、そこにさして特別なものは感じない。  感じなくなっている。  当初を思い出す。  そういえば、最初は栞が挟まれていただけで嬉しかったものだ。  読まれていると、分かっただけで、自分にもまだ価値はあるんだと、そう思えた。  大袈裟かも知れないが、本当の事だ。  作品は、紛れもなく生きた人間から生まれてきている。  そりゃ、上手い人には勝てないさ。  キャラだって多彩とは言えないし、世界観だって作るの苦手だ。  ただの自己投影、願望投射……それでも、他に上手く自分を表す手段がこれしか無かったから……書いていた。  それは糾弾めいたものだったかも知れない。 誰も分かってくれないし、誰も見ようともしないから、それを子供みたいに批判……いや、ただ罵倒したくて書いた。  高尚なものなんて何も無く、ただ誰にも言えなかった本心を台詞に込める。  誰も理解してくれなかったから、誰かが理解してくれる物語が欲しかったんだ。  けど、途中から関係無く、楽しめた。 書きながら笑い、笑いながら書いた。  だけど、慣れというのは怖い。  誰かの気持ちを蔑ろにするのが怖いのでは無い。  ただ、自分の心が震えなくなるのが怖い。 それは紛れもない、本当に恐れていた表現の死では無いか。

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