たすう存在

主人公ジャックが訪れた隙間の世界―― 天国でもなく地獄でもないそこは、カテゴライズやモラル、ロジカルから解き放たれた世界―― 以下に記しますのは感想でもレビューでもなく、ただの僕なりの読み解きです。 まず気になったのは何故アリスなのか?だ。 ライオン、ブリキ、カカシときて、ドロシーではなくアリスなのだ。 ただ作中にはライオンがチェシャ猫だとの記述もある。 不思議の国のアリスとオズの魔法使いに関して、僕は語ることのできるほどの知識を持たないが、あくまで印象としての話としては、ドロシーが目的を達成しに行く能動・挑戦型のヒロインであるのに対して、アリスは巻き込まれ型のヒロインであるということだ。 これが本作にとっては重要なのではないだろうか。 ジャックもまた完全な巻き込まれ型の主人公である。 彼は物語が始まると同時にはもう巻き込まれており、ついの最後まで巻き込まれ続ける。 では彼を巻き込む隙間の世界とはなにか? ジャックは隙間の世界を何度か夢だと判じている。 そしてそうでなければ自分の精神がおかしいのだと。 つまりは隙間の世界とは彼の心象風景、あるいは無意識が構築した世界なのではないだろうか。 そこに主として君臨するのは、同じく巻き込まれ型であるはずのアリス。 彼女はもちろんジャックの心理学でいうところのシャドウである。 シャドウ・アリスはジャックに様々なことを示唆するが、とある部屋は悪い者の吹き溜まりだという理由から 開いてはいけないという。 それがアリス=シャドウ=ジャックのすぐ隣の部屋であるというところが面白い。 部屋を開き無事に怪物へと孵化したジャックは最後の最後で(記されてはいないが)巻き込まれ型から、能動・挑戦型へと生まれ変わる……。 つまり、本作は空洞のカボチャ頭であったジャックが、ジャック・オ・ランタンへと成長を遂げる物語なのである。 ふーん。 怖くて不思議で面白いハロウィンをありがとうございました。
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