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アマートさんへ
岡田朔
2014/12/10 12:47
「これは珍しいですね。もしかして新種ではありませんか」 教授はいつになく興奮しているのか、ガラスケースの中を食い入るように見る。近づきすぎたせいで、息がかかったガラスが白く曇った。そして手を伸ばそうとしたその瞬間を狙って私は教授に話しかける。 「さあどうだろうね。興味があるのかい」 教授は私の言葉に、譲って欲しいと言わんばかりに体を乗りだしてくる。 「このアゲハチョウはアフリカ中央部生息しているザルモクシスオオアゲハの翅のように見えますね。鈍い光沢がありとても美しい青色、模様からしても間違いはなさそうですが、頭部・胸部・腹部・手足までもがまるでヒトのように見える……こんな生き物が存在するのですか。ああ、翅が欠けてしまっているのがとても残念だ」 アゲハチョウを覆うように全身にまるで刺青のような模様が入っている。蝶の専門家である教授は蜘蛛の方にまでまだ目がいっていないようだが、こちらはまるで花魁のように結われた頭部をしていて、艶めかしささえ感じさせる表情で何かをアゲハチョウに与えようとしている。 蜘蛛の糸も細いものではなく、平たいリボン……いやこれは包帯のようにも見える。一体何を食べさせようとしているのか。 私がガラスケースに近づき中を覗き込もうとすると、何本もある手を器用に動かしていた蜘蛛がはたと手を止め、ぐるりと私の方へその人間のように見える顔を向けた。 黄色い隈取りに縁どられた水色の瞳が私を捕えた瞬間、私の体の中を恍惚たる快感が駆け抜けて行った。 「売ってもらう事は出来るんですか、店主? どうかしたんですか」 しばし意識がどこかへ行っていたのか、私は教授の呼ぶ声にはっとして頭を振るわせる。しかしまだあの快感はどこかで疼いていて体の中から消えていないような気がした。 「……いや、これは事情があって売る事は出来ない」 教授は残念そうに、ぶつぶつと呟きながらもまだそのケースの中を見ているが、蜘蛛はもうこちらを向いてはおらず、また捕われた哀れなアゲハチョウに何かを与えようとしている。 屋敷の中身ごと買い取った中にあったこの手のかかりそうなガラスケースを早々に処分してしまおうと思っていたはずなのに、私は手放す事など考えられなくなってしまっていた。 そう言えばあの屋敷の主は、何かこれを受け取る時にクドクドと何かを言っていたような。
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岡田朔
2014/12/10 12:51
ついつい、綺麗なイラストに余分な事を書いてしまいました。 細部まで美しくそして刹那的にも感じられる素敵なイラストでした。 レビューになっていないような気がしますが、どうぞお納めいただければ。 秋イベにご参加頂きありがとうございました。
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ゆきまる
2014/12/10 13:58
こんにちは~! わあああん(´:∀;`) まさか岡田さんに自分の絵でSSを書いてもらえる日が来ようとは!! 岡田さんの作品が大好きで、いつか何か書いてもらえたらなぁ……とひそかに思ってました。 その夢が思いがけず叶って、すごく感動しています! 続きがすごく気になるのですが…!屋敷の主はなんて言ってたのか、気になります(><) 細部まで汲んでいただけてて嬉しいやら恥ずかしいやら……本当にありがとうございます。 サークル解散と聞いてしょんぼりしてましたが、最後にこんなサプライズがあるなんて/// 短い間でしたがサークルに入ってよかったです。 イベント管理お疲れ様でした。そしてありがとうござ
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岡田朔
2014/12/10 14:35
ゆきまるさーん!! わあああん、そんな風に言って頂けるなんて嬉しくて涙出ちゃいます。 ついイラスト見ていたらうずうずしてしまって、つい。 屋敷の主なんていったんでしょうねえ。なんとなく話の筋としては、あのガラスケージを手に入れてから屋敷の主は下降の一途を辿り、とうとう屋敷を手放すことになったという事なのですが、1000字いっぱいになってしまいまして(笑)SS失格……。 という事で、「蜘蛛に魅入られてはいけないよ」とか「早く処分した方がいい」とかそういう事なんでしょうかねえ。 こちらこそ、本当に至らないイベント副主催で申し訳なかったですが、ゆきまるさんとお知り合いになれて幸せです。 ま
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