舘 追海風

「―なーんてな、バレバレだぞ仁花」 「うにゃあぁッ!?」  不意に襲ってきたその声に、思わず悲鳴をあげた。 動揺の余り、手から零れるスマホ。刹那、スローになる視界に、部屋の奥にすっ飛んでいくそれが映った。 「あっ…わっ…!」 慌てて両手を伸ばす。空中の液晶を、包み込むように― どん。「ふぇ?」 ―そこで、彼女の腰が壁にぶつかった。 元々、しゃがむ形で隠れていたのに加え、両手を有らん限り突き出したこのポーズ。 反動は、仁花を転ばすのには十分だった。  ぺたあぁん! フローリングに、仁花のおでこと腕が着地する。重量感がなく、何となくもっちりした音がした。 「あうぅぅぅぅ…」 唸りながら、仁花はゆっくり身体を起こす。 まるで伸びをする猫のよう。 額をさすりながら前を見ると、スマホは運良く部屋の真ん中に敷かれたカーペットに乗っていた。 (あ…良かった……) ほっ、と身体の底から安堵の息が漏れる。 (…ん?) ―が、すぐに異変に気付いた。 (…さっき、悟猿兄(にい)の声が…近くから聞こえた…!?) 瞬間的に窓を振り返る。 「おーい、居るんだろー?」 …『魔王』の影が、そこに映っていた。 「うぅぅ、寒いなぁ…仁花、早く窓開けてくれ…」 「あ、う、うん…!」 何故か急いで立ち上がる。 からり。窓を開けると、雪の花が冷気に乗って舞い上がってきた。 マフラーと帽子があっても、風の冷たさは肌に直接刺さってくる。 そしてその中で、窓の縁(へり)に捕まって四つん這いで震えている悟猿を、仁花は見た。 ………。 ぴしゃん。 「あ、おい!?仁花!?仁花さん!?」 見てはいけない物を見てしまった気がする。 一浪している時点で既に残念だとは思っていたけど。 ―それでも気になる存在であったけれど。 今そこで不法侵入の容疑者になっている彼の姿は、 どうしようも無く残念すぎた。 「待って、早く開けてくれ!雪が溶けて、グ、グリップが…」 ………。 (全く) 少しの間逡巡したが、仁花は再び窓に手を掛けた。 さっきよりゆっくりと窓を開ける。内側と外側の窓が重なると、 「だあっ!!」 悟猿は勢い良くこちらの窓の縁に飛び乗ってきた。 「ふう、セーフ…」 そう言って、不法侵入者は窓から降りようとする。 「あっ待って、今タオル持ってくるから…!」 それを留め、仁花は階段を駆け下りていった。

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