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野井田 区論
舘 追海風
2015/3/2 13:15
「―なーんてな、バレバレだぞ仁花」 「うにゃあぁッ!?」 不意に襲ってきたその声に、思わず悲鳴をあげた。 動揺の余り、手から零れるスマホ。刹那、スローになる視界に、部屋の奥にすっ飛んでいくそれが映った。 「あっ…わっ…!」 慌てて両手を伸ばす。空中の液晶を、包み込むように― どん。「ふぇ?」 ―そこで、彼女の腰が壁にぶつかった。 元々、しゃがむ形で隠れていたのに加え、両手を有らん限り突き出したこのポーズ。 反動は、仁花を転ばすのには十分だった。 ぺたあぁん! フローリングに、仁花のおでこと腕が着地する。重量感がなく、何となくもっちりした音がした。 「あうぅぅぅぅ…」 唸りながら、仁花はゆっくり身体を起こす。 まるで伸びをする猫のよう。 額をさすりながら前を見ると、スマホは運良く部屋の真ん中に敷かれたカーペットに乗っていた。 (あ…良かった……) ほっ、と身体の底から安堵の息が漏れる。 (…ん?) ―が、すぐに異変に気付いた。 (…さっき、悟猿兄(にい)の声が…近くから聞こえた…!?) 瞬間的に窓を振り返る。 「おーい、居るんだろー?」 …『魔王』の影が、そこに映っていた。 「うぅぅ、寒いなぁ…仁花、早く窓開けてくれ…」 「あ、う、うん…!」 何故か急いで立ち上がる。 からり。窓を開けると、雪の花が冷気に乗って舞い上がってきた。 マフラーと帽子があっても、風の冷たさは肌に直接刺さってくる。 そしてその中で、窓の縁(へり)に捕まって四つん這いで震えている悟猿を、仁花は見た。 ………。 ぴしゃん。 「あ、おい!?仁花!?仁花さん!?」 見てはいけない物を見てしまった気がする。 一浪している時点で既に残念だとは思っていたけど。 ―それでも気になる存在であったけれど。 今そこで不法侵入の容疑者になっている彼の姿は、 どうしようも無く残念すぎた。 「待って、早く開けてくれ!雪が溶けて、グ、グリップが…」 ………。 (全く) 少しの間逡巡したが、仁花は再び窓に手を掛けた。 さっきよりゆっくりと窓を開ける。内側と外側の窓が重なると、 「だあっ!!」 悟猿は勢い良くこちらの窓の縁に飛び乗ってきた。 「ふう、セーフ…」 そう言って、不法侵入者は窓から降りようとする。 「あっ待って、今タオル持ってくるから…!」 それを留め、仁花は階段を駆け下りていった。
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舘 追海風