舘 追海風

 配達員の男が去った後、仁花は固まってしばらく立ち尽くしていた。 悟猿もまだ開いた口が塞がらない。男の去り際を、ただ見つめていた。 そのまま、雪の積もる音も響きそうな静寂が広がる。 「「―い…」」 ―そして、二人は同時にそれを打ち破る。 「いや、ドア閉めてってよ…」 「いや、ドア閉めていけよ…」      ――― 「さぁて、説明してもらおうか」  悟猿は胡座をかいて座り込みながら、そう言った。 腕を組み座る姿には、妙な凛々しさがある。 闖入者にシンクロツッコミを決め込んだ後、二人は再び仁花の部屋へ戻っていた。 そして部屋に入った途端、 『あ、そうだ』 と悟猿が呟いて、今に至る。  口調は再びシリアスモード。 穏やかな口振りだったが、声には鋭さがあった。 「…はい」 仁花は正座して、彼の言葉を受け止める。 あんな物を二つも見られてしまった以上、もう言い逃れは出来ない。 (ああぁぁぁ…どうしよう。もう恥ずかしくて死にたい…!)  仁花は俯きながら、顔を真っ赤にしていた。 悟猿の顔を直視出来ない。 「今お前に聞きたい事は山ほど有る」 「はい…」 「だけど俺だって、問い詰めるのは好きじゃない」 「はい…」  ここで恐る恐る視線を上げる。前髪越しに、悟猿の顔が見えた。 ―いつものニヘラ顔とは違う。不覚にも、男らしさを感じる顔付きだった。 (……!) すぐに視線を床に落とす。 俯きが、少し深くなった。 「だから、単刀直入に聞く」 「はい…っ!」 (…来る!)  再び危機を思い出す。手に再び力が入った。 ―ああ、終わった…。もうヤダ、死んじゃいたい…。 あ、そう言えば冷蔵庫にプリン残してたっけ…。 せめてプリンに囲まれて滑らかに死にたかった…! 走馬灯のように、思考が駆け巡った。 「お前―」 「ひっ!」 「あの男は一体何者だ?」 …。 ……。 「…ふぇ?」 何を言って居るんだコイツは? 「いや、見ず知らずの人だったけど…」 「水白州…なるほどそういう名前か。属性に加えて『州』という自らの攻撃拠点をイメージ出来るいい名前だ」 「あの、もしもし?」 「加えてあの横暴さ。客に対して何の躊躇もなく無礼を働くメンタルの強さ…決まりだな」 「え…?何が…?」

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