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野井田 区論
舘 追海風
2015/3/23 0:52
(―あ…) 瞬間的に、仁花の視界から色が抜けていく。 前には、大きく口を開けたシロクマがいる。それこそ、手を伸ばせば届く。遅くなる視界の中で、仁花の身体は最後の抵抗をした。身を捻り、脇にそれようと走り出す― ―いや、もう間に合わない。 刹那、家中に物凄い衝撃と粘液質な音が響いた。仁花がいた辺りには、 顔が赤く染まったシロクマと、赤いペンギンさん達の山、 そして壁に咲いた紅い花ができた。 「ぷはっっっ!!!!?」 数秒後、仁花はペンギンさん達の山の中から顔を出した。 何故か顔はほぼ無傷。それどころか、綺麗なままの彼女の身体は仄かに緑色の光を放っている。 「―え?嘘、何で私生きてるの…ていうか何この惨状!?」 「…ふう、間に合ったか」 声のした方を振り返ると、部屋の隅に水白州が立っていた。右手にペン、左手に紙を持っている。彼は肩を上下させながらも、ペンを仁花に向けて喋った。 「『プロテクション』」 「いやちょっと待って!」 水白州の言葉で空間が揺らいだが、仁花のツッコミで元に戻る。 「何で水白州さんがそのスキル知ってるの!」 「あ?別に不思議じゃないだろ、同じ小説次元の事なんだし」 「あわわわわわ!またそういうこと言う!」 「大体こんな便利な物俺が見逃すはずねーだろ。ふっ、流石俺に“さんずい”を付けただけの事はある、いい話書きやがるぜ」 「止めて!X●Vさんトークはここじゃらめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 仁花の怒涛のツッコミが部屋中に響き渡る。やがて仁花は息を切らして手で喉を押さえた。 その時だった。 もこり! 「「!?」」 二人の視線が集まる。その先で、赤備えになったシロクマが再び立ち上がろうとしていた。 「ま、まずいですよ水白州さん!早く逃げましょ―」 「いや、無理だ」 水白州が言った。何で、と言おうとした所で仁花の言葉が詰まる。 既に彼の足下はみっちりとペンギンさんで埋まっていて、とても動けそうに無かった。 てかどんだけペンギンさん居るんだよ。 「済まねえがこっからはあんただけだ」 「そんな!」 「早く行け!早く行って―」 とうとうシロクマが動き出す。水白州は更に強い声で言った。 「―悟猿と共に世界を救え!」 「…っ!」 仁花は迷いながらも走り出した。それを尻目に水白州は語る。 「―やっぱり演出のケチャップは要らなかったか…」
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舘 追海風