ホラー・サスペンス・ミステリーの要素が、万遍なく配分されている実に読み応えある力作です。 《このタイトル、そしてこの人物配置でなければ成立し得ない》……もっと言うと、E★エブリスタの創作小説ならではの、現実感と非現実感の境界線が曖昧になる魅力を、読者に「これでもか!」と見せ付けてくれるのが嬉しいですね。  追い詰められて行くヒロイン・萌。その音と音の書き文字の「行間」までもが、リーダビリティーの高さと相まって戦慄く(わななく)程の衝撃を与えてくれるのです。    バイト先の電機メーカーや大学のサークル(冒頭の飲み会シーンにご注目)それに、メゾン・シャトー201号室から見た視点。  作中中盤に登場する精神科医・赤羽目先生の発言に、心を病んだ者に対する臨床的対処法が言及されるのですが、こういった印象的なのに「さり気ない」いくつもの作中記述・ファクターが、後半で実はリンクしていたという真実の露見には度肝を抜かれるものがありました。 「書かれていること」にも「書かれていないこと」にも油断がならない、非常に心憎いまでの演出法です。お見事!  中でも高く評価すべき描写には、ヒロインの悪夢と現在進行形の災難が徐々に混在して行き、「警官が教授に、教授が駅員に」なったかと思えば、ジャックナイフ片手に彷徨っているのが《本当は誰なのか?》ヒロインも読者も、はっきりと判断出来なくなるくらいの不気味さが快感でした。  作者様である藤川瀬名さんは、文章のトリックを意図的かつ緻密な計算に基き、心理学を駆使して組み立てるという方法を(無意識の内に)会得しているからこそ、この作品を完成させられることが出来たのでしょう。  はっきり言って、この作家さんでなければ生み出すことは不可能な作品。 【課題点・改善すべき点】  真犯人(と言うより、作品の仕掛け)が判明してから後が、ほぼ「説明頼り」になってしまったのは勿体無いです。  今作は(大きな意味で)小説であり、虚無のメタフィクションなのですから、無理に解説させることなく、物語をまとめられるはずだと思います。  敢えてそうしているのも分かるのですが、一人称と三人称が混在して行くシーンの視点切り替え時に、「玲は絶句した」の直後「私に一歩一歩近寄った」など、小説のセオリーとして不統一な部分がかなり多いので、若干気になる人は気になるかも知れません。
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なるほど、ありがとうございますm(_ _)m
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