舘 追海風

 そこからは、悟猿の独白が続いた。 「本当は俺だって分かってた、こんなのは解決策でも最善策でも無いって事を。二年前のあの日から、俺はそれを知りながら逃げ続けていたんだ」 悟猿はそう言うと、窓の方へと視線を移した。 柔らかな日の光が、彼の神妙な面持ちを浮かび上がらせる。 仁花はそれを黙って見つめる。悟猿の目に、光が宿っていた。 「そう、二年前―丁度五月の頃だったか。その時から俺は」 「不登校になった」 突然仁花が悟猿の言葉に続けて呟く。悟猿は一瞬驚いて仁花の方を向いたが、やがて微笑んで、また窓の外側を見出す。 「凄く心配してたんだから」 「分かってる。本当にごめん」  悟猿はそっと目を閉じる。胸の所に置かれた仁花の手に、きゅっと力が入ったのを感じた。 悟猿からは見えなかったが、仁花は俯いたまま、顔を綻ばせて泣いていた。 悟猿は続ける。 「―受験生になった年も、俺は教室以外何も変わらないなと思った。ただいつも通り勉強して、そこそこの大学行こうと考えてた。そうなると信じてた。でも」 悟猿の視線がふいに下がる。 「現実は、考えても無いとこから攻撃してきやがった。四月の終わり頃、授業中にちょっと他の事を考えていたら、前に座ってた女子が『独り言ウルサイ』って言ってきた」 確かにそうだ、と仁花は思った。昔一緒に遊んでいた時の記憶にも、時々空想を呟いている悟猿がいた。 「そこから独り言に気を使うようにはなったが、それでも出るときは出る。その女子には何度も『ウルサイんだけど』と言われた。しかもそいつはクラスの中でも何か発言権みたいなのを持ってるやつで、次第に周りの女子達も俺の事を噂し始めるようになった。『いつもブツブツ言っててコワイ』とかな」 気付けば仁花の涙は止まっていた。目を横に向けながら、悟猿の話を受け止める。 「五月には大半の女子が俺を避けていった。男子も少しずつそれに混ざって、俺はクラスで浮いた存在になっていった。…まあ中にはそれを気にしない女子もいたが」 悟猿の話振りが少し変わる。仁花はその異変に気付いて悟猿の顔をちらりと見た。 「―今度はそっちが《標的》になった」 悟猿は悔しそうな顔をして、吐き出すように言った。 「人って勝手だよな。まとまりから外れたやつは片っ端から叩き出す。外されるのは皆嫌な癖に」

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