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野井田 区論
舘 追海風
2015/3/31 10:45
「ああ、これはすみません」 区論はゆっくりと椅子から立ち上がる。彼はそのまま椅子の横に避けて、 「どうぞ」 静かに席を譲る動作をした。眼鏡を輝かせて、区論は微笑みながら水白州の方を向く。 その流れるような一連の動作が紳士の風格を醸し出していた。 ―が、しかし。 「ああいや、分かったらそれでいい」 「…え?」 水白州は手の平を区論に向けて話す。どうやら座る気は無いようだった。 「それより今は別にやることが有る」 そう言うと、水白州は区論に背を向けて、仁花達の方へと歩いてきた。石畳の上を大股で歩き向かったのは― 「うわっ!?」 追風海の前だった。水白州はかなり顔を近付けて追風海を睨む。その剣幕におされて、追風海は思わずのけぞった。 「追風海さんよぉ、ここがあんたのページだからはっきり言わせてもらうが…もっと良い名前付けれただろ!何だ『水白州』って!ネーミングセンスを疑うぞ!?」 「い…いや…」 水白州が更に身を乗り出す。どう見ても、柄の悪い先輩にカラまれた気弱な後輩にしか見えない。 「で、でも水白州って名付けたのは、悟猿だったでしょ…!」 「そのページ自体お前が書いたろうが!やっとの事であいつを見つけたと思ったのに、始めて『水白州』で呼ばれた時の残念感がお前に分かるかぁ?」 「うっ…!?」 「しかもその後誰かが本当の名前付けてくれるかと思ったら『水白州』で定着しちまったし!最早改名のチャンスまで奪われて、怒らずに居られるかってんだこのやろう!」 「いや、それは僕の知った事じゃ…っ」 「うるさい!こうなったのは全部あんたの責任だ!今すぐ改名させろ!『ヴァッサー・ヴァイス・ザントシュトラント』に改名させろぉぉぉ!」 「長っ!そしてムズい!ていうかそれドイツ語で『水・白・砂浜』で結局水白州だし!」 「しまったあああああぁぁ!」 「…水白州さん………」 …そんな不毛な口論を見て、仁花は苦笑いした。 「っ!それより!」 思い出したようにゆかが仁花に問いかける。後ろでは未だに水白州の新名について、何故かシブも加わって騒いでいる途中だった。 「あなたは侍のゴザルさんの世界からここへ来たんですよね?」 「ふぇ?…あ、そうです」 「…うーん、となるとやっぱりここはゴザルさんの小説の中―」 「それは違いますよ」 突然区論が言う。 …隣に、ゴザルを連れて。
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舘 追海風