岡田朔

ユニークなキャラクターと独自の解釈が人気を博した民俗学者・玄河仁鶴氏による『万葉歌に見る大伴氏の栄枯盛衰』の連載が突然打ち切りになってしまったのは、とても残念でした。 第4回で予定されていた『大伴安麻呂と巨勢郎女』の回で、水葛を題材に中々結ばれない恋心を詠んだ二人の和歌や、壬申の乱で大友皇子側についた父・巨勢比等と共に巨勢郎女も流刑に処されたのかなどの謎をどう解説するのかとても楽しみだったので。 《万葉集より引用 『玉葛実ならぬ樹にはちはやぶる神そ着くといふならぬ樹ごとに(大伴宿禰安麿)』 『玉葛花のみ咲きて成らざるは誰が恋にあらめ吾は恋ひ思ふを(巨勢郎女)》 しかし、失踪したと思われていた玄河氏が、まさかあのような形で再び姿を現すとは思いませんでした。一体彼は何を調べる為に大伴氏の氏寺があったと言われている三笠霊園を訪れたのか、それでいてどうしてあのような場所であんな無惨な死に方をしたのかと様々な推測がされましたが、結局警察が事故として処理したのには、何かもやもやとしたものが残りました。 世間でも大伴氏の怨念のせいだとか、玄河氏が失踪前に何か大変な発見をしたかもしれないと言っていたとか、伴寺跡ではない場所で大伴氏の隠された墓を見つけてしまったから消されたんだとか、色々噂されていたのが思い出されます。 さて、何故この『吸い葛の香る頃に』のレビューで、私がこの話をしているかと言いますと、どうもこの話は玄河氏の失踪事件を元に書かれている気がしてならないからなのです。良く出来たミステリーだとは思いますよ。でも、まるであの事件の真実を暴露しているような、そんな想いが消えてくれないんです。この作者、事件の真相を知っているんじゃないかと……そんな邪推です。 消えた玄河氏の遺稿が鍵を握っているんじゃないかと言われていましたが、それが発見されたとの噂も気になりますね。どうやら親族である同じく民俗学者の玄河一鶴と言う方の手元にあるそうですが。是非真相解明の為に内容を公開して頂きたいものです。 (★)
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ミステリー文学大賞を受賞された作品に対する審査員の講評かと思いました! 読む前から、このレビューからして本作が緻密に練られた作品であることが窺えます。特に歴史好きの方々には興味を引かれないわけがありません。 私もさっそくページを開きたくなりました。
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いつも岡田さんのブックレビューを楽しみに拝読しております。今回の本はこちらではまだ発売されてなくて……(/´△`\) 玄河氏の大ファンでしたので、必ず購入したいと思います。上質なミステリーを雨の日に一気読みするのが私の贅沢です。玉葛にニヤニヤが止まりません。
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