たすう存在

「プラモの取説なのよ、結局は」 増葉雪のぶっちゃけた物言いが好きです。 車田博士を尊敬しているという割にはそんなことを微塵も感じさせない振る舞いと、難解な解説をスリッパ(や、その時々手近にあった武器)の一振りでひと段落させ、噛み砕いた意訳で代わりに語るサバサバした姿に痺れました。 「当麻曼荼羅」は要は極楽浄土に至るためのマニュアルなのですね。 プラモのトリセツという表現が増葉雪刑事のキャラクターにも合っていて良かったです。 本作は王道本格ミステリです。 密室殺人に歴史的事件を絡めるという手法は目新しくはないものの、緻密なトリックとダイナミックな犯行動機の取り合わせには震えがくるほど感動しました。 能曲や伝説、説話による演出が絶妙で、しかもそれらがただの演出で終わらずに全て一本の糸となって謎の解明へと収斂する超一級のミステリ作品でした。 さて、本作へのレビューは以上なのですが実は少々驚いたことがあります。 僕はこの作品を旧知の友人である玄河一鶴さんに勧められて読みました。 一鶴さんもすでにレビューをされていましたが、驚いたのはそのひとつ前の岡田朔さんのレビューなのです。 玄河仁鶴と言えば、民俗学に興味を持つ者でその名を知らない者はいない著名な方です(あの事件のせいで世間一般でも有名になりましたが)。 僕はてっきり玄河一鶴さんは仁鶴博士のファンでその名前をもじったハンドルネームを使っているのだろうと考えていたのですが、本当に親族だったというのですから驚きです。 ましてや仁鶴博士の遺稿が手元にあるなどと書かれています。 更に玄河一鶴さんのレビューにも引っかかりを覚えました。 一鶴さんは本作は「玄河仁鶴失踪事件」をモデルにしていると断言されていますが、件の事件は司法上の手続きこそ完結していますが、もやもやとしたミステリーは依然そこに付き纏っているのです。 また天上の哀切や神の罪と罰という華美な表現にも少し違和感をおぼえます。 岡田朔さんが本作の作者さまが事件の真相を掴んでいるのではないかと推測するのと同様に、僕も一鶴さんが何かを知っているのではないかと、つい邪推してしまいました。 そしてその真相に置いて本作の位置づけはとても重要なものなのではないかとも想像します。 もしも玄河一鶴さんや本作の作者さまに語るべき真実があるのであれば、是非と詳らかにしていただきたいと切望します。 (★)
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