吾妻栄子

源氏物語やシェイクスピアの「じゃじゃ馬ならし」などに見られる「好みの外見の美女を理想の女性に仕立てる」行為の裏側にある男性のエゴイズム。 「結局は目の前にいる彼女を蔑ろにし、心の底では受け入れていない」という皮肉。 一見、現代的なホラーのようで、実は古典的な恋愛悲劇に思えました。 ただ、秘密を知られたと察知した後の彼の様子から結末にある程度察しが付くので、もう少し察知後の展開を短く纏めた方がインパクトが増すと思います。 ヒロインに三年もの歳月を費やす忍耐強い彼が、同時並行を含めたとしても、十人も元カノ(データが残っていることからして、彼の秘密に気付かず全員生存)がいるという設定も、読み終えてから振り返ると、かなり違和感を覚えます。 「十本」という数値は、むしろ、結婚数年を経て、互いに中年になったシチュエーションにこそ相応しいデータ量ではないでしょうか(他のデータは結婚前の元カノばかりでなく、不倫相手や新しく目を付けた若い女性など)。 また、これだと「女性は上書き保存」というもう片方のテーマが少し薄いので、ヒロイン側が元カレに偶然再会しても何の未練も覚えないといったエピソードがあるともっと良いように思えました。 色々書きましたが、大変興味深く拝読した一編でした。
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