★シルバー★

田中さんこんにちは。遅くなってごめんなさい。以前おすすめされたカズオイシグロ著『わたしたちが孤児だったころ』の感想です。 私が田中さんから借りたカズオイシグロ作品で一番好ましく、最後まで楽しく読めたのは『日の名残り』ですが、読後感も含めると『私たちが孤児だったこ ろ』はかなり優れた作品であるように思います。 まず、語り手でもある主人公の言動から漂う 「俺ってすごいんだぜ」的な根拠なき自尊心が鼻もちならず、それに伴わない幼稚な言動と自己弁護に腹が立ち、かなり遅々とした読書となりました。短気で自尊心の高い主人公を何故か周りも持ち上げるものですから、最早手のつけられない好き勝手ぶり。そこにもまた腹がたっただけに、ラストでその理由が明らかになった際のスッキリ感は心地よかったです。 また、この作品のパートは現在と少年時代に分かれていますが、少年時代で主に描かれている幼馴染みを、主人公は現在で完全に人違いしますからね。一人称で描かれている以上、彼のフィルターを通して描かれるこの世界にはなんの信憑性も感じられません。 ラストで作品の見え方が一気に変わり、主人公がただの裸の王様であることが明らかになったときの滑稽さはスッキリするだけでなく物悲しさもあり、作品全体の真偽も揺らぎと、なかなかの読後感でした。

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