櫻ぱんだ

④ 祥くんはいつもそうだ 全体を見据えて 一番ベストを選択する 先見の明に長けていて 嫌な事でも汚れ役でも 必要とあらば 率先して自分が担う 誰も言えなかった俺の行動に きっぱりと『軽率』と叱り 彼女を守る為に 敢えて突き放す選択をし 恨まれることも厭わない 氷の様に鋭い瞳の奥に 消えることない熱い焔を宿す彼 色白で細身でおっきな瞳 柔らかで優しい見た目と裏腹に 内側に一本 揺るがない芯を持っていて 目標と掲げるものに向かう時 決してぶれない力強さも 兼ね備えている稀有な存在 「青海さんさ…」 帰り支度が整って 出て行く2人を見送った俺に 真剣な表情で語りかける仁野 「いい加減 替わりを探すの止めたら? あんたが本当に欲しいもんは ずっと傍で光ってるじゃん 周りで輝いて見える星は オリジナルを反射して 光って見えてるだけだよ」 「どういう意…」 「『色白で細身でおっきな瞳』」 「なっ…」 「170cmは女性では長身 だけど身近にいるから 最初からしっくり来たんでしょ あんたの話すこと何でも 楽しそうに聞いてくれて 凄いって褒めてくれて… 青海さん 俺でも知ってるよ」 仁野の潤む円らな瞳は 深淵を湛えた湖のように 俺の心を見透かして光る “あんたの好みは 昔からずっと一緒 唯一全部当てはまる人は 最初から傍にいて 年々輝きを増しているのに その存在を無視して 模造品を探し続けるのは あんたも重ねられる子も 両方が可哀想だ” 突きつけられた言葉に ぐうの音も出ない 脳裏に浮かぶのは さっきまで電話口で話してた 少し涙声でも気丈に振舞う 笑顔の可愛い彼女ではなく 誰よりも鋭い言葉で俺を責め きっと今頃人知れず 誰よりも胸を痛めて 俺の為に奔走してる彼の 一瞬だけ見せた泣きそうな顔 あぁ…俺は本当にバカだ 「結局さ…」 何も言わずに俯いた俺に 仁野が語りかけた 「お星様を捕まえるには 自分も星になるしかない 近くでお互いに光り輝けば 光は更に大きな光となって 周りからみたら まるで1つに見えるでしょ」 5人で光れば 更に無敵だけどね ニヤリと笑って 「まずはあんたの誠意 明日のコンサートで見せてよ 誰よりその姿を一番見たいのは あんたのお星様なんだから」 翌日俺はソロ曲を 声が枯れるまで練習し 想いを込めて歌いきった でもその姿を見て 遠くて近い煌めく星が 静かに微笑んでいたのを 俺は知る由も無かった end.
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