蘭乱世

 (応援)本がすきで色々読んでいると、時たまに、びっくりする物語にぶち当たることがある。日本でいうと夢野久作のドグラ・マグラ、海外ならばジョイスのユリシーズなどが有名。  それは携帯小説でも一緒で、寧ろこちらの方がより奇想天外だったり奔放な書かれ方をしている気がして、だから! 刺激を求めて文学海をザッパザッパの冒険者諸君よ! 一度は上陸を試みてごらん。図書館ではなかなかお目に掛かれない、奇妙だが、それはそれは愉快な物語がたぬきの姿をして闘っているかもしれないよ!   ……ということで、青柳しづき作『闘え!たぬきのこ!』のご紹介である。  この作品、何がそんなに、すごいのか?   先ず、キャラクターがすごい。主人公のキヌタは尻尾の部分がでっかいきのこのたぬきのこ! といういかにもメルヘンチックな生き物で、実際に、舞台となる森には可愛らしい仲間がいっぱい住んでいる。のであるが、しかし。  こやつ、全く可愛げがない。  物語の中で終始頭にあるのは自分の事情のみであり、周りに気を配ったり、共感を持って何かを育み合うようないじらしさなど、欠片も見せない。ライバルであるペンギンのギンタローにはことさら辛辣で、干からびたペンギンよばわりをするわ、宝物への集中攻撃で精神的に潰そうとするわ、挙句、ギンタローが思いやりから助言に現れた際のセリフが『腹いせに何かしにきたのかな?』……僕は思わず、ハイチュウと一緒に頬の肉を噛んでしまいました。  では、彼の仲間たちもへきへきかというと、これが全く、そうではない。寧ろ、好んでキヌタの心配をし、手伝い、励まし、共に苦楽を味わうことを良しとしている。特に幼馴染みのコノキなどは、どんなに冷たい反応を返されても気にすることはなく、ひたすらキヌタを喜ばせる態度のみで存在している。何故なのか?  それは、読み進めるうちに段々と理解できてくる。  この作品のキャラクターたちは、それぞれが、自身の価値観に最も従って生きており、他人の些細な言動などはどうでもよく、自分、というルールを貫くことを最優先として、故に迷えど楽しく! どのような不安も独自の理解と勝算でタフに切り抜けていく、いわば、究極の自己中たちによる、一方通行な、だけど不思議と成立している友情の物語であるからなのだ!  字数の関係で終わるが、この独自性は文体や比喩表現にも表れており必見。次作が楽しみです。
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レビューありがとうございました。 キヌタ達はかなり個性的で、作者としても手に負えないこともありますが、これからも暖かい目で見ていて頂けると幸いです。 他のキャラクターも続々出すつもりですので、これからもキヌタの活躍をお楽しみ下さいね。

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