「地を駆けるのは相変わらず素晴らしい」 僅かながらの領地を抜けて、誰の手にも委ねられていない、人知未踏の自然が執り成すその一望千里の雄大な眺望は、馬上に揺れるレイン公の心を大きく昂らせた。どれほどの距離を走ったであろうか、既に自分が数時間前まで寛いでいた白城も地平の彼方へと姿を消し、その先にある太陽によって光を帯びながら輪郭を曖昧に薄め、やがて目視では届かぬ地平の一部と化していた。 「君もそう思うのかい? 日暮れまであと少しだ、そろそろ夜営の準備を始めないとね」 栗色の毛並みを静かに撫でると、 愛馬テトラ一号はファルルと機嫌良く吠えた。 たとえ電子空間の世界であろうとも、かりそめの世界であろうとも、この鼻腔を刺激する草木の匂いと 美しい名画にも勝るとも劣らないこの雄大さを、何故、ひとひらの人間ごときに支配が成せようか。 鞍から降りたレイン公爵の足元に、柔らかい感触の黄金色に輝く野生の麦畑が歓待していた。 「これは食べれそうだな、少し頂いていこう」 装飾華美な宝剣を鞘より居合の構えで抜き放ち、横一文字の軌跡が足元で風に揺らめく、銀光がはためき、両手ではとても抱えられない量の麦が伐採された。 「少し腕が鈍ったな、切り口が潰れてる」 一本の麦を見つめながら、 レイン公は草笛を鳴らした。 無数の馬たちが蹄を地面に轟かせ、 テトラ一号の袂へと集合した。 天啓の策士〔テンケイノミコ〕と評されたレイン公のみが為せる技である。剣技こそ一流ではあるが、彼が本領とするのは他者を殺すことではなく、むしろ逆であった。他者を活かすことに関して言えば、彼の技量はエブリスタ内において上位に入るであろう。 たとえ人間であっても、たとえ動物であっても、その魅力には逆らえない。彼の周りには常にそういう空気が流れているのだ。仮にここが血も凍りつく地獄だったとしても、彼の周りだけは平穏なのかも知れない。 「やぁやあ初めまして!!ちょっと頼みがあるんだが手伝ってはくれないだろうか?」 ファフアルル、野生の馬群が、瞳を輝かせる。 「諸君らをテトラ二号と任命する!! この名誉、心して拝謁するが良い!! そちらをこれより我が陣営に加え、物資の輸送を命じる。ありがたくその任を全うせよッ!!」 ファフアルル、ファフアルル!! ファフアルル、ファフアルル!! ファフアルル、ファフアルル!!
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めっさ格好いいんだけどΣ( ̄□ ̄)! よ、よ、良いのか…Σ( ̄□ ̄)兄で💕

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