吾妻栄子

妄想コンテストの大賞とのことで興味深く拝読しました。 講評にもありましたが、深海の神秘的なイメージを色鮮やかに表現した、短いけれど鮮烈な作品でした。 ヒロインが飽くまで記憶喪失のまま、元はどのようなアイデンティティの人物だったのか、なぜ冒頭のような状況に陥ったのかを敢えて明らかにせずに結末を迎えている展開が斬新ですね。 そもそも元のアイデンティティや記憶喪失に陥った原因を明らかにすることが劇中の彼女にとってもはや何ら意味を持っていないシチュエーション設定も秀逸です。 ジャンルとしてはファンタジーになりますが、個性豊かな深海の生物の様子や「水晶の中は完全に無菌状態なのでヒロインが死んでも遺体が腐敗することもない」といった説明にリアリティが感じられ、作品全体の奥行きを深めている点も高く評価したいです。 物語を額面通りに解釈すればヒロインは死滅するわけですが、「揺りかご」という言葉が出てくることで、どこか彼女の再生の予感が浮かび上がる点でも希望が感じられて良かったです。
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