日高さつき

「どこ行ったんですか、もう……」 今私は家から1時間程かかる海水浴場へ来ているが、一緒にいたはずの連れとはぐれてしまい必死で探しているところ。 大勢の客でごった返していて、見つかる気配がない。 あの人、目立つ容姿なのに……夏の太陽が肌にジリジリきて、疲労感が増す。 普段はインドアで家に籠ってばかりの私にこれはキツい。なのに強制的に連れ出されて、挙げ句……。 うん、もういいや。監視員の人にお願いして呼び出してもらおう。その方が早い。そう思って踵を返すと、 「……あ」 10m先に連れの姿。周りには連れをナンパしていると思われる男3人。 まぁ、あの人美人だもんな。声かけたくなる気持ちはわかる。でも……。 おっと、そんなことより早く合流しなきゃ。熱い砂浜に耐えつつ小走りでそちらへ向かう。するとその途中で私に気付いたようで。 傍に近付いた途端、凍りついた目をして睨み、 「……ちょっと、どこほっつき歩いてんのよ」 その目と声に辺りの空気が一変。そしてナンパ男の1人が一言。 「え、おねーさん、オトコ……?」 他の2人は口をあんぐり。連れ……もといレンさんは見た目は水着を華麗に着こなす美人。しかし生物学的には男。所謂……おネエ。 そんな周りのことなど全く気にせず、 「ホラ、さっさと行くわよ」 私の腕をぐいっと引き、指を絡ませ手を繋ぎ、そのまま引きずるようにしてその場から移動しだした。 この女より美人なレンさんとちんちくりんな私の関係は……恋人。なぜかお気に入り認定され、無理矢理付き合ってる状態。 強引ドSで正直疲れるけど、逆らえず逃げられずってところ、だ。 「イダっ……もう、痛いですって、レンさん!」 絶世の美女も中身は男、握力はかなり強い。強く握ってきて、潰されそうなくらい痛い。 そこまで強く握らなくてもいいのに、と思っていたら。 「こうでもしないとまたはぐれちゃうでしょうが……」 「…………」 そう言ったレンさんの頬が赤く染まっている。 それは夏の日差しのせいではない、そんな気がした。 《終り》 ※修正バージョンです
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