水尾伊吹

「君はもういないのか②」 ガランとした部屋。陽光が畳に溜まる。この部屋はこんなに広かったか。静寂にかき消される歓声。黒箪笥の背に溜まる想い出という埃。僕はすうと指で撫でる。それを見返す指は震えている。君は座卓に肘を付き、今日あった一日を楽しそうに話していたね。僕はおざなりにするふりをしながら幸せをかみしめたものさ。今日の何気ない一日をどうか神様お守り下さい、と。僕はいつも整頓されていた白い引き出しを開けお気に入りだった白地に花柄のスカートを丁寧に取り出す。なんて軽いんだろう。膝に垂れた生地に君の足はない。君を抱くように僕は持ち上げる。さらりとした感触は君のものだ。変わらないよ。その間開きの唇が。その顎から首にかけてのラインが。。。僕の瞳にペパーミントみたいな清々しい涙が生まれる。ねぇ。今日は最後にするから黙って泣いていいかい。。。
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「静寂に埋もれる歓声」に訂正したいと思います。

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