岡田朔

「宵宮」をジャンル分けするのはとても難しいなと思います。ファンタジーの要素はあるのですが、その中身はとてもどっしりとした伝承を元にしたミステリーだからです。 物語の中では、はっきりと地名は書かれていなかったのですが、気になって調べたところ、福井市本堂町(旧丹生郡西安居村)で十月に行われる高雄神社の祭礼「獅子渡り」を元にしているようでした。 この獅子渡りというのは、村の西のはずれに位置する「宵の宮」に祀られているオシッサマ(天鈿女命)とハナオッサマ(猿田彦)の二神が、高雄神社内にあるお旅所「待手の宮」に御渡りし一泊してからまた「宵の宮」へ戻ってくるという神事なのですが、作中にもそういった記述が出てくるので間違いないかと思います。 「サイヨリ、ミヨリ、イタデコデント、イコマイカ。シニコーハシヲ、コシタナラ、イカイチチヲニギラセテ、ナンバミソイヤナラ、ゴットミソ」という作中で祭に参加する子供達が唄う唄は、「太鼓を叩いて行こまいか。死児の橋を越したなら、大きい乳房を握らせて」という意味を持つようです。 この死児の橋は実際に存在し、人身御供に選ばれた子供を箱の中に入れて置く場所だったとされているようで、不謹慎ではありますが、一度見てみたいなと思ってしまいました。 物語は二つの時代が同じ村を舞台に、交互に書かれています。 現代では村を訪れた20代の青年が祭りの中で狐面を被っているという母親を探す男の子に出会ったところから、もう一つは飢饉に喘ぐ江戸時代の村を舞台に、人身御供の白羽が立った家の子供の母親が泣き叫ぶところから始まります。 二つの物語を纏う雰囲気から変えてくるあたりが作者様ならではの力量を感じます。さすがですね。 中盤から徐々に物語が重なり合っていくにつれ、唄の意味や祭礼が行われている理由となる伝承が、作者様独自の解釈を加え物語性高く解き明かされていくのに夢中になってしまいました。 素晴らしいお話をありがとうございました。 (★)
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