天藍

そうこれは夏の日の祭の物語なのです。 回る風車、風にはためく旗、草を食む牛、晴れ渡った青空、夏の太陽に温められた川水……。そんな夏を守るためにアミーがどれだけたくさんのものを選択して、捨ててきたのでしょう。 何故なら風車は止まらない。 ならば風車祭は必ず行われる。 その度に、アミーは、なんて哀しいことを。 彼女の手はもう空っぽと言っても過言ではありません。エーレンガルト姫と雲上で出会う第4章の冒頭で零すアミーのあの一言は、彼女の絶望でした。いつだって喪の色のリボンを髪に結ぶアミーは、でも、その一言を天に言うことで、涙を零すことで、この闘いの終末を見いだせたのです。 エーレンガルト姫の歌をアミーが受け継ぐことで、あの日の風車島が帰ってきました。やっと、ようやっとです。エーレンガルト姫はハッピーエンドを手に入れ、天は両親と再会し……、アミーだけが、あの闘いを記憶する。風車の管理人として。 やさぐれ少女のアミーは決して誰にも弱音なんて言いませんけど。島民が風車祭にはしゃぐ中、独りエーレンガルト姫の歌を口遊むその姿は、なんて寂しい。 その背中に声をかける人影。 たくさんのものを捨てたアミーの手のひらの中に、彼だけは唯一彼の意思で戻ってきてくれた。 ただそこで泣き出したりなんかしないアミーがさすがですね。見事なハイキックをそこでキメるアミーが大好きです。 少女は歌い続けて、少年は絵を描き続け、風車は回り続ける。福音の歌ともう離れない手。風車祭の日の風は透き通ってうつくしい。青い空に雲が流れて、川には鳥、夏の花に蜜蜂。爽やかな夏の日の祭で、彼らは永遠の、愛を、あの日手に入れられなかった、愛を。 完結おめでとうございます!爽やかな筆致で綴られた、夏の素敵な物語でした。 (★)
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