うりぴぃ

第1部は、ヒロイン視点の現在と、ヒーロー視点の過去が交互に語られます。  9年ぶりに再会した元恋人同士。よそよそしい態度をとりながらも互いから目が離せない現在と、初々しい初恋が実を結んでいく過去。その展開の落差に、読み始めてすぐ惹きつけられてしまいます。  過去の経緯が明らかになるにつれて、複数の人々の悪意の連鎖に暗澹たる気持ちにさせられます。それでも、作品世界を抜け出したくならないのは、現在の二人の会話や場面の雰囲気がどことなくコミカルで明るく、再会した二人の未来に希望を持って読み進んでいけるからでしょう。  このストーリーの構成が時系列通りだったら、重苦しくて読むのを途中で断念したかもしれません。  異なる時制と二つの視点が同時進行しながら、整合性に矛盾をきたさず織り成される物語に魅せられます。  第2部は、過去の答え合わせを終えた二人のそれからです。ヒーロー視点が過去から現在になりますが、作品世界の時間は第1部の現在の続きです。雰囲気も第1部と変わりません。  けれど、第1部で明かされなかった空白の9年間がここで大きな意味をもって、作品のテーマを一変させます。ここから、読者はフィクションを鑑賞する傍観者の立場にいられなくなります。思いもかけなかった展開に、価値観のあり方を試されているかのような自問自答を繰り返すことになるのです。  本当に深くて読み応えのある作品です。 (以下、ネタバレを含みます)  『周囲の悪意の連鎖に引き裂かれたカップルが、9年の時を経て再会し、誤解を解き、愛を復活させました、めでたし、めでたし……。』こんなふうにハッピーエンドが訪れることを予想していた読者としては、智大の9年間は衝撃でした。  それからは、智大に関わる人たちの所為で美結が傷つく図式が繰り返されるのはもう見たくない、と思いながら成り行きを見守ってきました。  プロローグで語られる美結の深い心の傷が、エピローグで智大の言葉で解消される場面は、目頭が熱くなり、重苦しく圧し掛かった胸のつかえが楽になったような気分になります。このシーンにたどり着けてよかったと心から思いました。 二人の行く末には、これからも様々な試練が予想されますが、愛し合う関係が破綻することは決してないだろうと信じられる結末でした。
9件・3件
人間誰しも間違いを犯す。それをどう乗り越えて行くか。 そんなことをテーマとして書き始めた小説でした。 ところが、第2部に入ってからの読み手の皆さんの反応は私の予想以上で、何度も悔やみました。別れた直後の智大にあんなことをさせるんじゃなかったと。私自身が間違ってばかりの生き物です。 後悔しながら迷いながら書き進めた私にとって、エピローグのシーンにたどり着けて良かったと思ってくださったことが何より嬉しいです。 カタルシスとまではいかなくても、2人の未来に希望を感じていただけたのなら幸いです。 ここまで深く深く作品を読み込んで、素晴らしいレビューを書いていただいて、本当にありがとうございました。
3件2件
返信コメントをありがとうございます。 カタルシス、まさにそれを味わわせていただきました。 実は、レビューの原文が長すぎて字数制限をオーバーしてしまい、削った部分にその言葉を入れてました。 智大の行動や思考は、私は本当はすごく共感できるのです。 ただ、恋愛小説のヒーローには似つかわしくないから衝撃だったし、リアリティーあり過ぎで唖然としてしまい、腹立たしく感じたりしてました。 第2部に入って、作者様が描きたっかたのは現代の御伽噺ではなく、”めでたし、めでたし”のその先なのだと気が付いて、テーマの深さに驚きました。 大和は、高校時代の智大のアンチテーゼ的存在ですよね。 智大に大和のような思
4件1件

/1ページ

1件