有月 晃

 退職した同僚に宛てたメールで幕を開ける、この物語。  時候の挨拶から始まって、「あなたが去っても誰も困っていない」と多少辛辣な冒頭部分。なんだか雲行きが怪しいが、それもそのはず。どうやら、相手に対して少なからず思うところがあるらしい。  つらつらと苦い心中を吐露する言葉が並ぶ。  面と向かっての話し言葉や、手書きの文章ならば、こうはならなかったでしょう。  キーボードというのは一種の打楽器の様な側面があって、パシパシと指を踊らせるそのリズムに不思議と興が乗ってきて、ついつい言葉が過ぎてしまうことがあります。  それに加えて、無個性なドットの集合体である文字達は、書き手が込めたニュアンスや言外の意をごっそり置き去りにして、相手の眼前に唐突に表出する。  その結果、トラブルの温床となりやすい。誰でも、身に覚えがあるのではないでしょうか。  そのお手本の様な捨て台詞で結ばれた一通目のメール。  そして、これに対する返信が…… おや、件名からして既にちょっとよくわからない。  売り言葉に買い言葉的な罵詈雑言の応酬が始まってしまうのかと思いきや……  コンテストのお題「地下鉄に乗って」を見事に取り込んで、一往復のメールの中で物語を成立させる構成。これにニヤリとさせられました。  そして、きっと誰もが「うわ、そうきたか……」と仰け反るであろう結末。全ては最後の一文のために。  短編らしい短編と言えると思います。  チルヲさん、ご馳走様でした。
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うわー有月さん! こんな長い文章のレビュー、戴いたことないです! 素直に嬉しいです( ´∀`) 以前にもお話しましたが、『地下鉄』というこのお題には本当に悩まされてしまいました。なにせ、近くには地下鉄どころかローカル線すら通っていない。バスも通っていない。そんなわたしに『地下鉄に乗って』で文章を書けと? で、苦し紛れに用いたのがこの手法。 まさかこれが入選し、たくさんの方に温かいお言葉を戴けるとは、本当に夢にも思いませんでした。 メールを作成する二人の、怒りだとか、戸惑いだとか、それでも拭いきれない寂しさや恋しさ。そういうものが、文面から少しでも伝わってくれたらなと願いながら、この物語を書
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チルヲさん こんにちは。有月です。 いつもレビュー頂いてばかりなので、たまには私から書かせてもらいました(笑 エブリスタからのお題が身近にない物だと、困ってしまいますよね。日常的に地下鉄利用してる人には、どうしてもリアリティの面でかないません。 でも、そこを工夫したからこその受賞だと思います。特に短編はそういうアイデアで勝負できたりするし、面白いですよね。 二人とも感情的な文面になってしまっていますが、それも心中に隠して確かめられなかった思いがあるからこそ……というところを巧みに浮き彫りにされていたと思います。温かい気持ちになったというか、照れました! 特に最後の方!(笑 で
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