黒。

  ただそこに在る。 それはただただ美しく、 私は瞬きすら出来ずにそれを見つめている。 見つめることさえ許されていない、そんな尊厳すら感じてしまうほど 銀色に輝く白い毛並み、 太い幹の木々の間を悠然と歩く四肢の巨体、 長く尖った耳が私の小さな息吹きに反応して傾く、 嗚呼―― 鋭く細められたなんと美しき黄金色の瞳よ 『ヒトよ、去れ。ここより立ち入ることは赦さん』 白き獣の声が脳内に響いた。 それだけで心の蔵が止まるほどの衝撃であった。 これが“カミ”か―― 私は頭で考えるよりも先に肌に刺さるような目に見えぬ力でそう理解した。 白き獣の牙は私に向けられることはなく、音もなく去ってゆく… 呆然とする中で私はひとつ奇妙なものを見た。いや、見た気がしたと言った方がいいだろう。 白き獣に寄り添うように細い影があったのだ。その影がヒトのように見えたのだ。 まさか。 カミとヒトとが殺し合うこの時代にそんな光景が在るわけがない。 一杯の酒代替わりに私は話す。とある山で出くわした恐ろしくも美しい白きカミのことを―― 寄り添う影のことは抜きとして。 カミとヒトとの禁断の恋模様を描く和風ファンタジー 小説『天狐白王奇譚』 絶賛更新停止中!(自爆)
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