有月 晃

タイトルを一瞥して、いつも通り警戒しつつ読み進めるが、ライトな滑り出しにいささか肩透かしを食らう。 所々に散りばめられた、どこかで見た様な奇妙なキーワードに記憶の襞をくすぐられつつ、全体的な雰囲気はさほど百合百合しいこともなく、むしろ学園モノのワンシーンに見えなくもない。 だが、これには必ず裏かある。 大体、若い女の名前が熊猫(シェンマオ)ってなんだ。 一昔前の日本みたいに大陸にも、身近な野生動物達にあやかって「虎」「鶴」「亀」みたいな名を付ける習慣があるのだろうか。 そして、なにやら色々盛られてそうな雰囲気の怪しい鍋焼きうどんを主人公が完食して、一人称モノローグから三人称視点へとスムーズに視点がシフトした辺りで、行間に漂う空気がヒンヤリしてくる。ダメだ。私の脳内アラートは既に真っ赤。そして…… あぁ、そうか。そうだよね。書き出しとの温度差が魅力、と言えなくもない。ってか、これは百合と言うよりサイコサスペンス。タイトル詐欺か。 なお、再読にあたっては、著者の無駄に豊富な教養から無造作に取り出された用語群の縁起を調べながら読み進めると、物語の枝葉が明後日の方向に伸びてより困惑が深まります。 まぁ、期待通りというか、でも、今回のは著者にしてはパーツ少な目で緩やかに回転する万華鏡を覗き見る感じでした。 本作を機に著者を知ったという読み手さんは、他作品にも手を伸ばせば独特の酩酊感を得られるかも知れません。 嘉肴ありと雖も食らわずんばその旨さを知らず……(ちょい違
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