成井露丸

 始めの一段落から文章に引き込まれます。 「冬枯れの枝に蒼い芽が、人目を忍んで産声を上げる。それが膨らめば、春だと人は言う。でもいつからが、本当に春なのか。カレンダーは三月から春だと言っている。でも二月の終わりには、梅の花が咲く」  物語は、少年と少年より少し背の高い少女の他愛も無い会話から始まります。  帰宅部の少年と文芸部の少女の掛け合いが、テンプレで空疎なものではなく、身近で質感のある二人の姿を描いていきます。  そんな中、ニュースではサスペクトパシーという難病の流行の報道がなされ、不穏な珪肺が立ち込めていくのです。  友達以上恋人未満な二人の間で進むお話ですが、地の文で描かれる見事な表現にグイグイと引き込まれました。多用される見事な比喩や、リズム感のある表現。しばしば、章やページの冒頭一節に「ほぅ」と溜息を漏らしてしまいました。  作品の「説明」にも書かれているように、決してハッピーハッピーなお話ではなく、切なさを運ぶお話ですが、読後には確かな余韻を残してくれる作品だと思います。  分量的にもコンパクトな作品です。  是非、今すぐにでも、読み始められることをお薦めします。
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レビュー並びにコメントありがとうございます。 途中途中のツイの一言一言も非常にうれしかったです。 比喩表現とともに、変わっていく今の残酷さと美しさをかみしめていただけたら、と思います。
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