綾崎暁都

この小説は入院している高校生の薫が、看護師である牡丹に、夢で出会った6人の蝶の羽を持つ少女との出来事を語る内容。正に薫の幻想、現実逃避とも取れるような話に、牡丹は最後まで付き合い、6人の少女の話を聞き終わった後、思ってもみなかった事実が薫の口から語られるのだが… この作品は心の中を旅する夢物語です。夢の中のそれぞれ違う場所で6人の少女と出会い、そこで彼女らの人生に触れることで、薫はもちろんのこと、読者である僕自身、いろいろと考えさせられます。そして、つらく悲しいこともあったあの夢の世界が、とても愛しく感じることも。 しかし、この小説はただの夢物語では終わらせません。自分たちが暮らす現実世界から、逃げてはいけないということを。 僕自身、『ライ麦畑でつかまえて』のホールデンのような少年でした。世の中の欺瞞的なことから逃げて、自分にとって都合のいい心の中の創造物、世界に目を向けていました。でも、いずれはそこから出て行かなければならない。だって、自分が創造した世界の住人ではない。そして、現実からは逃げられない。このことに気づかされるからです。 でも、たとえ自ら産み出した創りものの世界でも、この小説は無視してはいけないと教えてくれます。自分の心の中で感じたことをしっかりと受け止めて、この先の自分の未来へと優しく歩ませてくれるような暖かさを、この作品が語ってくれるような気がします。 この小説は僕らのような創作に携わる者こそ、読むべき作品だと思います。とても素晴らしい作品です。素晴らしい作品に出会えたこと、本当に感謝してます。本当にありがとうございました!
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