倉橋

 この小説を読み終わって思ったことは、「満足感」といささかの「後悔」である。  とにかく満足できる。  ホテルの結婚式場が舞台。  主人公は結婚式司会者。  そのため、結婚式の進行の様子が、今、そこで起きている出来事のように、私たち読者に迫ってくる。  一体、結婚式の女性司会者がどうやってアクシデントを解決していくのか?  新郎新婦自体にアクシデントの原因があり、修復不可能と思われたトラブルが鮮やかに、そして人間というもの、人生の素晴らしさに共感できるかたちで解決していくくだりは、私たちに忘れがたい爽快感を与えてくれる。  結婚式の準備、進行などの現場を、ベテランマネージャーと若手マネージャーのやりとりと行動を通じて、実際に見ることができる興味も作品の魅力である。  後悔というのは、この小説。じっくり読むべき作品だと思う。  私はさっさと読み進んだことを心より後悔している。  それほどこの小説は、さまざまなキャラクターが縦横無尽に、それぞれの人生、一日を奏でている。映画でお馴染み、グランドホテルという形式を私は思い出した。  主人公は一応、結婚式の司会者ということになってはいるものの、作者はあえてその内面に迫ることはない。  園立という司会者のキャラクターは、マネージャーたちの目や口を通じてのみ描かれている。それだけに、彼女の実像については、読者である私たちも登場人物のひとりとなって見つめていかなければならない。  主要キャラクターのほとんどが園立に関わり、そしてひとりひとりがそれぞれの毎日、そして人生を送っている。園立の実像に迫ろうとする時、私たちは彼らのキャラクターもじっくり観察しなければならなくなる。彼らのキャラクターから形成される主観で園立という女性が語られていることは間違いないからだ。  私は途中で気がついてあわてて最初から読み直し、園立という主人公の実像をとらえようとした。だが謎めいた彼女は、最後の最後に幾分、自分を語ってくれるが、多くの謎を残して通り過ぎていく。  園立という謎めいた魅力溢れる主人公をとらえるには、この小説はじっくり読まなければならない。  私は結局、最後の瞬間に、彼女に逃げられてしまったような敗北感に襲われている。  彼女が再び、なんらかのかたちで戻ってきてくれるかどうかわからないが、私の園立探しはこれからも続くと思う。    
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倉橋さまへ(=^・^=)けいたんです。この度は、すばらしいレビューをありがとうございました!(^^)!読んでいだくのに値するか。作者としていつも苦悩している基本のキをすかっと指し示してくださいました。手法に関しては、ネタバレの域です(笑)三人称一元の典型的なヒーローの物語論。今まで書いてきてよかったなあ、こんなご褒美をいだく日が来るなんてすごい事だと。しみじみ、幸せをかみしめています。エブリスタの読者さまに、果たして園立さんのような大人の女性が主人公の作品を読んでいだけるのか心配でしたが、応援してくださって嬉しかったです。イベント参加作品のため、続きは未定ですが、倉橋さんが書いてくださったレビ
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