ちぬの子ら

「真夜中」をテーマとしたホラー作品。  まず本作の作者様はなんと言ってもその文章表現力が素晴らしい。地の文にはその卓越した表現センスが遺憾なく発揮されていて、読み進める度に「なんと上手い表現を思いつくんだろう!」と、この辺りの表現センスに乏しい自分などは羨ましく感じてしまいます。  ストーリーとしては、死神と出会ってしまった少女の顛末を描いたものとなっているのですが、個人的にはこの二者の危うい友情関係に心惹かれました。本作は全編に渡り緊張感に満ちていながらもどこか秘め事のような耽美的世界観をも醸し出しており、こうした鋭い雰囲気は作者様の高いセンスと、その卓越した文章力が成せる賜物かと思います。  しかしなんといってもホラー作品。二人の関係が楽しいままで終わる筈もなく…。最終的に友人と思っていた死神から追われる身となった彼女でしたが、二人の関係が破局を迎えたのは少女自身の身勝手さにありました。  主人公はおそらくは普段から美少女としてチヤホヤされている事が想像に難くなく、中々に強いエゴを備えた人物であると推測出来ます。  故に彼女は死神に身勝手な願いをするのですが、これがいけなかった。最初は「嫌いな教師を異動させて」といった程度でしたが、やがてそれは度を越していき…。  結局彼女は自身の願いによって破滅したとも言えますが、そもそも死神が少女の願いを聞き入れる態度を見せた意図はどこにあったのか。  元からそういう手口でハメておいて最後にその代償を支払わせるつもりだったのか。あるいは友誼を結んだよしみゆえなのかは窺い知れません。  少女の命を刈らざるを得なくなった事に対して死神は一見何の感情も持ってないように見えますが、そこに至るまでの間に彼は度々少女の増長をたしなめたりもしています。  故に「もしかして本当は少女を殺したくなかったのでは?」と思わされる余地があり、それがまた本作の赴深い読後感を生む事に貢献していると思います。  死神くんのあの飄々としたキャラクターはどこか愛嬌を感じさせるものがあっただけに、愚かしくも自ら一線を越えてしまった少女との破局は悲しいものがありますね。  本編のストーリーをほぼ明かしてしまってるレビューとなってしまいましたが、興味を持たれた方は是非ぜひご一読頂いて、月に照らされる美しい刃物のようなこの独特の世界観を堪能して頂ければと思います。
・1件
ニックさん 過分な評価恐れ入ります。 読んでいただき感謝しきりです。 詳しい返信は丸ゴリ氏と同じくツイッターの方でさせていただきます。
1件

/1ページ

1件