Arthur

高校で出会い、大学で結ばれる二人の紆余曲折を描いた作品です。生徒会で知り合った健人と直哉は、とある出来事がきっかけで意気投合し、親友と呼べる間柄になっていきます。大学も学部もバイトも同じ。友人としてお互いを好きなことは間違いない。でも、もしこの想いを伝えたら……。親友という関係の近さが、余計に二人の間の隔たりを分厚くしていきます。なかなか自分の気持ちを伝えられないもどかしさ、切なさが健人の視点でリアルに表現されていて、彼の感情を追体験できます。ただ友達として一緒にいられればよかったのに、いつのまにかそうじゃなくなっていた。今にも溢れてしまいそうな想いと現実との間で葛藤し、素直になれない健人の弱さ。そして、葛藤の末にどれだけ苦しくとも直哉をまっすぐに愛そうとするひたむきさ。繊細な心理描写が読者の共感を強く誘います。彼らだけでなく、登場人物の思考や行動には、作者の主張や疑問が提示されていて、セリフの一つ一つに哲学が潜み、読み返す度に新たな気づきを得ることができます。人を好きになるという単純な気持ち。それを遂げたいと思った瞬間立ち塞がる障害や様々なしがらみ。そして、自分らしくあることはいけないことなのかという不安。それらの問題に彼らはいつも一人ではなく誰かと一緒に答えを出していきます。その姿が人間というものの本質を突いているように私は思います。苦しくても怖くても、大切な人を惜しみなく愛したいなと思える作品です。 この作品から私は、ずっと抱えていた疑問や悩みに改めて向かい合う機会をもらいました。登場人物たちの導き出した答えが、彼らの言葉が、私の心の底に溜まっていたものを溶かして洗い流してくれました。直哉の苦悩、自己否定する様を自分に重ねて何度も涙しました。たとえ叶わなくともボロボロになるまで想い続ける覚悟に、こんな自分を太陽のように愛してくれる人を想う切なさに。続編4作品も拝読しましたが、彼はまだ自分のことを認めきれていないように見えます。それでも、健人はこれから先もずっと直哉のことを認め続け、愛し続けるんだろうな。いつか直哉が自分のことを心から認められたらいいな。そう願っています。この作品は私にとってかけがえのない大切なものになりました。出会えて本当に良かったです。虎之介様、こんな素敵な小説を書いてくれてありがとうございます。次回、海外旅行編待ってます!
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