倉橋敦司

 シリーズ第三弾。このシリーズは心を魅かれたので、一、二とレビューを書かせていただいた。  三作通じての舞台は寿司屋の「はる道」。  不器用だけど実は世話好きな主人の玄道(げんどう)。  「お母さん」と呼ばれる妻は、天性の明るさを活かし、遠慮なく店に来るお客の人知れぬ思いを引き出していく。  玄道は、妻の言動にしょっちゅうヒヤヒヤさせられながらも、お客を力づける最上のネタを考え、結局は二人三脚、お客に「明日への希望」という最高の料理をご馳走していく。  ただしこの小説。テレビやマンガでよく見かける飲食店を舞台にした心温まる小説というだけではない。  シリーズ通じて登場する「はる道」を贔屓にするベテランの高校教師、袖井かの子(そでいかのこ)はずっと家庭の問題を引きずっている。かの子に誘われるかたちで店の贔屓になった同僚の津曲克俊(つまがりかつとし)も何かの過去を引きずっている雰囲気がある。  お互い心を通わせながらも何かの拍子で行き違う二人の関係が、「はる道」という共通の場所で、また元に戻っていく過程を描いた「人生の小説」「人間の小説」という紹介をしたい。  作者は饒舌に登場人物のプライベートや過去を掘り下げることはしない。凡百の小説にあるようなドタバタの事件も描かない。  以前にレビューに書いたように、読者に行間を埋めさせつつ、かの子の心の動きやちょっとしたやりとりをメインに小説が展開される。  其の三では、ジェーンという女性が、学校の進める国際交流事業の関係者として学校を訪れる。彼女は津曲と以前、何か関係があったようだ。  かの子と津曲との間に起こる微妙な波風が、イギリスの名作小説『ジェーン・エア』を小道具に英語の表現も交えて絶妙に描かれる。  このシリーズを読むと、小説とは「読む」ものなのだという当たり前の定理を改めて思い知らされる。  そして作者が、「小説をどう読ませるか」について、各作品毎に挑戦しているような思いに打たれる。  自分はエブリスタの投稿者のひとりである。ひとりの投稿者として「すごい」と率直に思うし、これからも作者の作品を読んでいきたいと思っている。  このシリーズは、小説本来の姿である「読むための小説」を僕たちに示していると思う。  
倉橋さま いつもいつもありがとうございます。 素晴らしいレビュー 、自分の作品が読みたくなってしまう……。 本当に嬉しいです。 昼休みに、満たされております。

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