倉橋敦司

シリーズ四作目。  作者も手慣れてきて、この人の持ち味であるなだらかな語り口に加え、読者を作品の世界に引き込む不安、緊張がさりげなく冒頭で表現されるなど、よい意味での「読み物」としての娯楽性をも備えてきている。  登場人物は、寿司屋の主人と「お母さん」と紹介される妻。寿司屋をひいきにしている高校教師の女性。彼女の同僚の男性教師の四人。  すでに若くはない男女のひそやかな愛情のやりとり、心の流れ。 ふたりをそっと見守って、ふたりの気持ちに思いを馳せながら、今日のネタや料理をさりげなくふるまう寿司屋夫婦。  このふたつが小説の大きな軸である。  家庭に何か事情を抱えているらしい袖井かの子。戸籍上は既婚者であることが、会話の端々で示唆されるものの、詳しい事情が語られることはない。  そしてまだ独身の津曲。  お互い強く意識し合い、会話の端々に自分の思いをぶっつけ、時には相手に近づく男女に嫉妬の思いを寄せるものの、かの子の複雑な家庭環境がある以上、それ以上の関係には発展しない。  だから不倫とはいえない。  僕は「心の恋愛」と呼びたい。  大きな事件があるわけではない。  今回はふたりの共通の知人である教師が転任してきたことで、ふたりの関係にすれ違いが生じ、お互いに不安になり心が揺れ動く。  果たしてふたりの心は元の鞘に収まることができるのか?  学校と寿司屋でのささやかなふれあいだけで展開するふたりの男女の「心の恋愛」。  それは、「大人の男女」だからできる不思議で魅力的な愛のかたち。小説だからこそ語ることのできるテーマ。  改めて第一作から読んでみることをお勧めしたい。  魅力的な新しいかたちの恋愛のあり方を、きっとあなたも感じることができると信じている。  大人の恋愛はステキだ・・・
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