なぎの みや

長い長い旅路。しかしそれにもきっと、訳がある。
遠い彼の地の想い人に、恋しさや寂しさ、様々な慕情の念を抱きながら空を仰ぐ主人公。彼の内側にある薄くて淡いもの。主人公と共に、これの答えを考察していく事が、本作の醍醐味ではないかと思います。 雨を好む主人公と、雨を嫌がる想い人。雨は憂鬱になるから、あなたにそばにいて欲しい。雨が好きな、あなたが。彼女の雨に対する思いは、主人公の雨に対する思いをも少し変化させた。彼は雨を見ると彼女を思い出し、心を憂い、そしてそこに心地よく身を委ねる。ここでも彼の内側の薄いものが淡く色付きます。まるであの頃の、真っ直ぐで透明だった心の窓に、少しだけ薄いフィルムを貼るように。 彼は旅立ち、その長い旅路の間にも様々な色付きを感じては認識出来ず、前を向きながら自問を繰り返します。それは想い人を出来るだけ長く見つめるための、彼にとっては必要な作業。 物語の終盤、主人公は想い人に近付きます。しかし恐らく、道のりはまだまだ長いような気がします。彼の内側の薄いものは、これからまだまだ淡く彩られていくでしょう。 その薄いものとは。 彼の見たもの感じたものを、心に見せる為のスクリーン。私は願わくば、彼の旅が終わった末に、鮮やかに色付いた薄いものを通して旅路を振り返って欲しいと思います。そして鮮明な、可愛らしい色を通して想い人を見つめられたらと願ってやみません。そして彼自身が、鮮やかな人生の足取りを醸し出さん事を。

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