倉橋敦司

文学を読もう。『冬の蜘蛛』を読もう!
 最近、エブリスタで注目の作家の新作。  もともとは純文学を志していたようで、じっくり読ませる作品を投稿している。  今回の作品は、氏が常に追い求めるテーマ。とっくに青春時代を過ぎた初老、中年の男女のプラトニックな関係を描いた野心作である。  離婚したばかりの高校教師の神林は、父親の介護などの現実の中で、教育への興味や熱意も薄れてきている。そんな時、新任の女性教師を見かけて興味を抱き始める。  すでに家庭を持ち、子どももいる女性教師。  ふたりの関係は、ひそかに、だがお互いをハッキリと意識したかたちで徐々にに発展していく。  元妻と女性教師には、「蜘蛛」という共通点があった・・・  女性教師は、教育委員会にいた元妻が彼にしかけた悪戯なのか・・・  読後感を申し上げると、とにかく面白かった。  「文学」の定義はいろいろあり、評論家でもなく、教育者でもない自分に語る資格はない。  だが一読者としての立場から申し上げれば、「文学」とは、「文章」が非常に重要な意味を持つ。  島崎藤村や芥川龍之介の小説でも分かる通り、文章自体が単なるストーリーの説明の域を超え、芸術の域に達している。  自分はある時期、漱石の『坊ちゃん』や藤村の『夜明け前』を何十回となく読み返した。  読み返すたびに、行間やちょっとした表現に新しい発見をして楽しい時間を過ごした。  氏の小説がまさしくそれである。通しで、一エピソードを集中して、自分は何回か、この小説を読み返した。  読み返す度に、初老の高校教師と女性教師の関係が、次第に自分の方に近づいてくる。  ふたりの関係に身が震えるような崇高さを見出し、深い感銘を受ける。  まさに「文学」の醍醐味である。  もちろん部分的には色々と意見はある。  だがこの小説を読むことで、「文学」を読む楽しさを多くの人に共有できればと思い、拙いこの一文を認めた次第である。  とにかくじっくりと読んで欲しい。  

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