凪司工房

文学の香り漂う官能ミステリ作品
凪司工房です。失礼ではありますが、全く個人的な見解に基づく評価シートを書かせていただきます。 (ややネタバレも含みます) 【総評】 主人公の女性の執念とでも呼ぶべき情念が、ねっとりとした描写で書かれていて、どこか文学的な香りが漂う官能ミステリに仕上がっていました。性描写が多かったけれども、良い仕事をされていました。 【人物】 主人公・堀田由香子の歪み具合がとても良く、個人的に「由香子、乱心」の章で彼女のスクーターに対して取った行動とその結末は非常に良い表現になっていたと思います。 子供心にも似た無邪気さと残酷さがその一場面に凝縮されていました。 【設定】 仏像を性具にする女、というのは嫌悪感を示す人も多々いるだろうし、あれこれ無礼だという人もいらっしゃるでしょう。 けれども性というものは古くから文学でも扱われてきた題材で、人間の真理を考える際にはなかなか切り離せない、重要なものの一つだと考えます。 そういう意味でも仏像彫師の夫を持つ女性を主軸に据えたのは、作品の色とベクトルを良い意味で決定付けており、個人的に評価の高い部分でした。 【ストーリー(構成)】 全体に占める割合が大きいのが性行為です。 特に組員の権藤が出てくる、その前までの執拗な性描写がやや物語を停滞させている、と感じました。 (作者の方の趣味かも知れませんね) できれば性描写をしつつも何かしら人物の心の動き、あるいは物語を前に進める情報の提供があると停滞感が薄れるでしょう。 【文章】 丁寧な描写が場面場面を想起させ、それらが上手く本作の色を伝えていたと思います。 (前作からは格段の進歩をされた、と個人的に感じました) 注意点、というほどのものではないですが、冒頭字下げが出来ているものと出来ていないものが混在していたので、次回作ではフォーマットがバラバラにならないように気をつけられると良いでしょう。 【一言】 特殊な設定と、性を中心に展開していく物語はなかなか他では見られず、しかもそれがエロに終始するのではなく、仏像彫師というモチーフを通して女の性から愛に通じる執念の物語として表現されていたのが、とても好印象でした。 面白かったです。
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