「はるのおと」シリーズ第一部終了にあたって
 シリーズの第一部が終了した。自分は氏の作品を知ってから、愛読する作家のひとりとなり、このシリーズもその一から読み続けている。  今回、第一部がその六で終了するにあたり、改めてシリーズの魅力を語りたいと思う。  本作品は、仙台の寿司屋を舞台にした大人の恋愛小説である。  氏は純文学を志していたらしく、文章がすばらしくうまい。  実はこのシリーズ。劇的な展開も大きな事件もない。寿司屋と学校を舞台に、男女の教師の心の恋愛が、ふたりの心理描写を中心にゆったりと綴られる。  ふたりとも青春を遙かに通り過ぎた年齢。女性教師には家庭があり、男性教師は独身を通してきた。  女性教師の家庭が冷えきったものであることは、具体的なエピソードが羅列されることもなく、ゆっくりと心理描写と行間の妙を使って読者に提示されていく。  不倫ではない。だが心と心の触れ合いは、お互いがいなければ我慢できないほどの感情に高まっていく。  そして女性教師は、冷えきった家庭に対してひとつの結論を下す。  だが男性教師は、女性教師への思いは思いとして、これから風雨に見舞われるだろう女性教師の人生を受け止めるだけの覚悟が持てないまま悩み続ける。  ふたりの心の恋愛は、夏目漱石のオムニバス短篇である「夢十夜」をはさみ、ささやかな光明を見出すところで第一部は終了する。  はなやいだデートや肉体関係ではない。   心と心で描かれる恋愛がどんなに心を引きつけるものか。どんなにロマンチックなものか。  ぜひともこの小説で知って貰いたい。  この小説には、いかにもといったかんじの悪役は登場しない。誰であろうと、人生を真剣に生きている人々がつむぐ一篇の抒情的な、そして読み終わった後に多くのものを残してくれる小説である。  このシリーズには、本作に登場する「夢十夜」をはじめ、「ジェーン・エア」など様々な文学作品が登場する。  エブリスタの読者の中には、読んだことのない人たちもいるかと思う。  あえて言う。  ダイジェストであれ何であれ、一度は読んで欲しい。  こうした文学作品は、現代社会を生きる我々の心が欲している栄養だと確信するからである。  そして「はるのおと」のシリーズもぜひ読んで欲しいと思っている。  
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