紅屋楓

儚く淡い春と冬。
「冬は死の季節なんだよ。」 冒頭の最初の一文めは梶井基次郎の「桜の樹の下には」を彷彿とさせます。 この言葉が物語にどのような意味をもつのか、真っ先に考えるのはあまりよろしくない。 静かに息をひそめて、ほんの少し離れたところから春と冬の後を追うのです。その際、スマートフォンやPCの画面を挟むのは距離感的にちょうどいい。 しかし本作をWeb上のみのものとするのは非常に勿体ない。 少しずつ少しずつ見え隠れする春と冬を中心とした人々の物語。炙り出されるような家族の形や春、冬の成り立ち。じっくり腰を据えて向き合うための作品には、読者としてしっかりと自分の時間を確保してほしい。 総じて、どこか深いところにいて、そこに木々を揺らすこともないほど淡い風が吹いているような作品です。 まさしく『春に見つけられた冬の物語』というタイトルは、この作品のためのものなのではないでしょうか。
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