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アラディア、あるいは死神の物語
土佐屋治兵衛
2019/9/1 20:45
人の情と欲の隣には命の終わりがそっと寄り添い、蝋燭の火か消える
あまりレビューという者は、この土佐屋には敷居が高い。 人様が身命を賭して書かれた作品成れば猶更で御座います。 そのような作品を評価するのは如何様な身分が高い者なのか。 自身が馬糞の匂いにも劣る土佐屋なれば猶更というもの。 しかし、この作品は貶すところや非の打ち所がない作品で御座います。 敢えて言うなら、横文字でなく質量がある紙に、印刷された縦読みで読みたいとさえ思った作品で御座います。 読んでみてお気づきの方もいらっしゃいますでしょう。 作中において古典落語、歌舞伎、浄瑠璃、講談等々、様々な古典芸能を題材にして取り入れておいでになられております。 これは、作者様の底知れぬ知識量と文学に対する傾倒、そして、それを昇華するだけの才覚に恵まれておいでだからこそで御座いましょう。 小説で映像や漫画などで到底太刀打ちできぬものは、人の心の深く迄入り込めることで御座います。 心を描く、この一点では他の表現手段より遥かに凌駕する物を小説では表現できるので御座います。 これは偏に想像という人間が質量を持たない能力を持っているからで御座います。 この想像性こそが、この本作で十二分に発揮され、人の持つ情け故に悲しみ、欲ゆえの愚かさ、怒りに燃え盛る焔、愛するがゆえに歪んでしまう者、嫉妬にて身を滅ぼしてしまう者の心情、その過程までをも見事に表現できるので御座います。 何故か? それは、文字を見て、理解するために必要なる想像力があるからで御座います。 この作品を読んで、様々な人間模様を頭の中で思い描くことが出来るでしょう。 文章や、落語の軽妙なる会話、そして、そこから見えてくるのは人間そのもので御座います。 小説とはかくあるべき姿を、この作品は老若男女問わずに楽しめる幻想的な世界の中で楽しめる作品で御座います。 そして、この作品の題材となった古典芸能が何かを探し当てるのも、また一興かと思います。 この作品から派生する古典芸能のすばらしさを堪能し、また、この作品を再度読まれることをお勧めいたします。 人の情けと欲の隣には、命の終わりがそっと寄り添う儒教の教えが垣間見えるかも知れません。 因果応報。 そして、読了後、心にひとつの蝋燭の火が灯るかもしれません。 その時に、鳴き声が聞こえたら、聲の主は…… 烏かも知れません。
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甚平
9/2 19:50
改めて全文でのご感想、誠にありがとうございます。 落語とは人間の業の肯定である、とはご存じの通り立川談志師匠の言葉です。 本作で参考にするにあたって、ここを変えたくはないと思っておりましたので、 話の中で人間そのものが見えてくると仰って頂き有難く思います。 全てお読みいただきありがとうございました。 またお目にかかることありましたら、よろしくお願いいたします。
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