直田 麻矢子

ただ、やりきれなさが胸を突く……
ああ…と思う。言葉が浮かばない。本当に。読了後に身を委ねながら、喪失感が居座り、胸がかき乱されるというのがこういうことなのかと思い知る。互いに思いやっているのに、不器用というだけでは片づけられない感情で、どうしてこんなにもちぐはぐになってしまうのだろう。ボタンを掛け違ってしまったわけではなく、些細な間違えが積み重なった結果でもない。父親はもとから間違ったことを言っていないし、息子だって。ただ一点、原因を自らへ向けて、互いを理解できないというだけで。実際は思いやっていたのに。同じ方向へ歩み出せる何かがあれば違っていたのでしょうか。父親に対しても、息子に対しても、寂寞とした悔しさだけが心に残る。 二人を手紙がつなぐ。目に見える形で残ったけれども、それも時間とともに朽ちていく。どうしても寂寥感が横たわる。ずいぶんと身勝手な願いだけれども、一言でも交わして欲しかったなと。そうすれば手紙なんて必要なかったのに。 ともに考えること、心のうちを見つめ直すことができる作品でした。日常でこういった行き違いは実際に多いのかもしれない。だからこそ、人間の存在意義の根本を突き詰める感覚にとらわれるのかもしれません。 素敵な作品をありがとうございます。
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直田さん、非常に的確な、心に染み入るレビューをありがとうございます。 不器用な人って、実は沢山いますよね。 何にでも不器用な自分です。 そして、喋るのも苦手なため、ついつい手紙というツールに頼ってしまう。 これはそういったお話です。 手紙ではなく、話し合いが出来れば、違った結末も望めたのかも知れません。 人と人。 全て分かり合う事は出来ないそうです。 だからこそ、少しでも歩み寄れたら。 特に、文字ばかりのこの世界に生きるなら尚更です。 伝える事は難しい。 そう、自分も思っております。
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