めん ちょこ

閉じた世界と雑味のないピュアな想い
未知の事柄を知る過程に、私は興奮する。飛行機の尾翼の製作工程、道具、勤務する人間の極限状態が描かれているこの作品は、「お仕事BL」の括りでは収まりきらないスケールをもっている。圧倒される世界だ。 そこで惹かれ合い求め合う男たちが、性の欲と愛し愛されたい欲を唐突に包み隠さずさらけ出して、かなりの割合で満たされないから、甘くないぞ、この作品は。 工場での男たちの動き、過酷なスケジュール、達成感、疲労感、自己顕示欲、諦め、矜恃……様々な想いが、巨大なのに閉塞感のある場所で生まれては沈殿していく感じに息苦しさを覚える。出来上がって納品される品が大空に飛び立つ飛行機の尾翼、というのには皮肉なものを感じた。 工場に縛りつけられた松永と奏多の間に生まれた欲を満たす関係は、お互い擦り合わせたら同じ未来が見えただろうに。互いに、相手が向き合ってくれるか自信がなくて、目を背けて逃した真実。全く余裕の無い仕事と生活の中では、ふたりで未来を描く青臭くて甘い時間なんか作れなかったんだろうな、と殺伐とした気分になる。後に描かれる松永の生家での暮らしで、松永の心の背景を理解するのだけれど。 やがて松永の抱える閉塞感に風穴を通す南が現れる。松永のクソ面白くもない生き方と、性欲を満たす以上の同性の相手を見つけたいという渇望のギャップに足を突っ込み、とうとう松永自身にのめり込む若者。彼がバイクで夜の高速を自由に駆け巡る若者であるのも面白い。彼には閉じられた世界から抜け出して、どこまでも疾走する生命力がある。美味しいものを作って松永の空腹を満たすこともできる。松永の魂を閉じた世界から引きずり出して「共に生きていく」ことを意識させる、そんな若者だ。南が松永の中に存在する奏多の残像に悩まされる場面は辛い。でも、ふたりで乗り越えてほしい。奏多にはできなかったことを、南には期待している! 互いを理解し、認め合い、思いやることがどれだけのパワーを必要とするか、気が遠くなる。でも、松永も南も諦めてはいけないのだ。愛してるんだから。諦めたら一生後悔するし、生きる意味まで失ってしまう。奏多の二の舞を踏んではいけない。そんなメッセージを読み手の私たちにも突きつけられて、傷がある読み手には痛みを伴うだろう。 久しぶりにひりひりする渇望感を味わうことができた。欲しくて欲しくてたまらない想いが尊い。
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はじめまして。 もうこれが本編でええんちゃうか、と思ってしまうかっこいいレビュー、ありがとうございます♪ 読んでてとてもドキドキしました。
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はじめましてm(_ _)m コメントをありがとうございます(≧▽≦) 失礼を承知で、いきなりレビューを、しかも偏った想いばかりで書かせてもらいました。 「パパも恋して~」を先に読みましたが、その後に読んだ本作にノックダウンされました。お仕事の特殊さと詳細な書き込み、迷いの無い言葉の使い方、完成されたキャラたち……。これが処女作とか信じられませんでした。飛行機の尾翼を作りつつ、映像の仕事とかなさってるのかと思いました! 三部作めの完成を待ち望んでおります。(あと手をいれん、とかないですよね~😢)
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