小夜時雨

クリスマスだから、一人でケーキを食べた。 これを見る人にとってはたぶん。別にどうということもない。興味のわかない話だ。ノリで言えば、おそらく深夜に書いたポエムみたいなもので、どうでもいいことなのだろうし、あとから自分で見返せば、何を言っているんだ自分。となること請け合いで、チラシの裏に書くような下らない内容だ。 私は元来、甘党である。しかし、ただ甘ければいいというものではない。まあ、何が言いたいかと言えば要するに、美味しかったのである。クリスマスケーキが。 あまりに美味しかったので私はそれをより美味しく戴くために工夫を凝らすことにした。その美味しさに陶酔して、没頭したかったのだ。 まず、紅茶を淹れた。洋梨の花の香りがする無糖のよくある三角パックの。それをコップにいれてお湯を注いで少し蒸らして。 ケーキをほんの少し。一口。三角形の一番尖ったホールなら内側のほうから崩すように。フォークで縦に。 滑らかで濃厚な牛乳の香り。生クリームとスポンジ。その間に挟まれた缶詰に入っているようなパインとピーチ。溶ける生クリーム。柔らかいが舌に少し残るスポンジ。瑞々しく存在を主張する果肉。 甘い。だが、それは粗暴なものではなく繊細な。しかししっかりとした。生クリームの重さを感じさせる。だがきちんとスポンジと果肉たちもいるという、生クリームを主役におきながら三者三様にお互いを殺しあわないような平和と調和。 一口ケーキを口にしたら次は紅茶を口にする。なぜならいつだって甘いものは最初の一口が一番美味しいから。残念ながら、私は人間で人間には慣れというものが存在する。甘いものに甘いものを重ねると味覚が鈍るのだ。 暖かい紅茶。口から鼻に抜ける花の香りと渋み。草の香り。目の前に花畑が広がった。甘さに媚びるようにだれてしまった私の舌をぴしりと引き締める。 それからまたケーキを一口。ああ、どこから食べようか。クリームの多い上の部分か、スポンジの多い下の部分か。それとも果肉の多い真ん中か。非常に悩ましい問題だ。全部一緒も悪くない。悪くないが、私は美味しいものはちまちまと小さな一口を繰り返す食べ方をするのが好きだ。元々食べるのが遅いこともあってケーキを半分食べるのに二時間はかかった。

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