小夜時雨

ではなにが足りないのか。それはおそらく暖かさだ。紅茶は既に冷めてしまっている。それを暖めなおすのは勿体ない気がした。ではどうすればいいのか。 答えは自らを暖めることである。暖房の効いていない自室で食べていれば当然体は冷える。暖房を効かせることもできるが、私は冬生まれで室温は少し低いほうが好きだ。夏はいつもぐったりしている。それに室温を上げると、ケーキや紅茶までもが暖まるのでは、と考えた。 冷えた紅茶とケーキを楽しむために、私は風呂に入った。思ったより指先や足先が冷えている。 早めに風呂からあがって再びケーキを口にする。冷えた紅茶が火照った体に染み込んでいく。そうだ。これだ。甘さにだれた舌を今度は取っておいた苺で引き締める。ほどよい酸味。弾ける種子。 そうしてから最後の一口にたどり着く。名残惜しく、切ない終演。後ろ髪を引かれるような生クリームのまろやかな甘味。 クリスマスケーキ。ご馳走さまでした。

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