奏音 美都

 日本航空サンフランシスコ国際空港行きの搭乗手続きが開始されるアナウンスが流れた。 「もう、行かなくちゃな」  宏典が寂しそうな笑みを見せた。大好きな父が離れてしまって寂しいという思いよりも今は、類を連れて行ってしまうという憎しみに心が支配されてしまいそうだった。 「類っっ……」 『どうか、私を忘れないで。愛してる』  彼の心に強く訴えかける。美羽は人目も憚らず、声をあげて泣いた。類の手が、小さな美羽の手を包み込み、ギュッと握り締める。 『僕の心はずっと変わらない。ミューだけを愛してる。絶対に、迎えに行くから』  強く強く握りながら、類の端正な顔が醜く歪み、嗚咽を漏らしながら泣く。  どうして、こんなに愛しているのに離れなければいけないの!?  魂が、こんなにも互いを強く求め合っているのに!!  躰が真っ二つに引き裂かれるような思いだった。 「ほら、もう時間よ!」  華江が急き立たせ、宏典が名残惜しそうに搭乗口へと足を向ける。 「類」  宏典が呼びかける。だが、類は美羽の手を解こうとしない。 「類!」  再び、宏典が呼びかけ、今度は強引に類のもう片方の腕を引っ張った。ふたりの繋いでいた手が離れていく。意地でも離そうとしない類の手を、美羽はギュッと目を瞑り、自ら離した。 「ミューーーッッ!!」  悲愴的な類の叫び声が心臓をナイフのように切り裂く。 『愛してる、愛してる、類……待ってる、から。ずっと待ってる……』 「ウッ、ウッ……うわぁぁぁぁあああああああっっ!!」  宏典に引っ張られていく類の姿が小さくなる。いつまでもいつまでも、その姿を美羽は追いかけ、幻となっても追い求めた。  いつか再び出逢える、その日を夢見て。 <『別れの時』ー完>
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せつない(泣) 背景もわかってますます ふたりが幸せになってほしいです
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