ポラード

ディスタンス
バスに乗り、俺は後部座席に座り、敢えてギターを隣に立てる。 彼女と距離を取っている責任をギターに擦り付けるかのように……。 小さい頃は、何時も隣に座り、楽しくお喋りをしていた。 「私、大人になったら、世界で活躍出来るピアニストになる」 「俺だって、世界で活躍するんだ」 「お互い、頑張ろうね」 そんな話をして、何時も笑い合っていた。 だが、あるコンテストで、彼女は優秀な成績を収め、俺は落選した。 それ以来、ピアノから遠ざかった。クラシックを聞くのも止め、流行りの音楽に夢中になった。 彼女との会話も減り、距離も離れて行った。 「どうして止めたの?」 「才能ないから。お前は才能があるんだから、頑張れよ」 「才能なんて、努力をしなかった人の言い訳だよ!」 「才能があるからそう言う事が言えるんだよ!」 こんなやり取りをして以来、彼女と満足な会話をした記憶は無い。 中学になって、俺はロックにのめり込み、ギターに夢中になった。 クラシック何てやってられるかよ! ロックこそ魂の叫びだ! 受け売りの言葉で、ギターを抱え、友達とバンドを組んで、ロックに自分の時間を注ぎ込んだ。 いや……。 都合の良い現実逃避だったのかもしれない。 風の噂で、彼女がピアノを止めたと聞いた。 今、どうしているのかな……。 そんな想いも他所に、ロックと言う、その場凌ぎの楽しみに夢中になった。 学校の勉強は疎かになり、何とか高校には進学できたけど、今度は全ての責任をロックに擦り付ける自分がいた。 ギターを何気に弾いてみる。昔聞いたクラシックのメロディーをふざけて弾いてみた。 メロディーがコードスケールに従って組み立てられていることに気付く! 夢中になり、昔、習ったクラシックのメロディーをギターで弾きまくる。 ピアノに夢中だった時の記憶と同時に思い浮かぶ彼女の横顔……。 「お互い頑張ろうね。二人で世界に羽ばたこう!」 あの時、二人で無邪気に交わした約束。 約束の証となった青いイルカのキーホルダー。 ギターケースに取りつける。 音楽に真剣に取り組んでみることにした。この約束の証に誓う。努力をしてからの言い訳なら許してくれるよな。 バスの中での彼女との距離は今も変わらない。彼女と視線を合わせることが出来ず、見なれた景色を見つめ続ける。 いつか、この距離が無くなる日が来ることを信じて。
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こんにちは! 文字数の関係で、こちらに挨拶となり、申し訳ないです。 イラストを見ていたら浮かんできました。感想を含めてのSSとなります。 勝手な妄想の掲載、お許し下さい。
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ポラードさん、完璧やないですか!
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